帝人のアパートの側で帝人を待つ三人。


「運び屋、俺、あんたの名前は初めて聞いたよ。外国人だとは思わなかったな」


 楽しそうに口元を歪める臨也に、は小さくため息をついた。
 臨也は初めから知っていたのだ。これは、今まで教えてくれなかったセルティに対しての嫌味。セルティはそれに気付いているようで、無視を決め込んでいた。
 はセルティの正体を知っている。幼い頃からの友人であるセルティ。首が無いことも、デュラハンと呼ばれる妖精だと言うことももちろん知っていた。


 ――臨也さんは、セルティの正体に気付いてるのかな。


 臨也の職業は情報屋。どんな情報でも彼の元に集まるだろう。そう考えると、セルティの情報も行き渡っているように思えるが、実際は目撃者の情報をかき集めた分しか知らないのではないだろうか。


 ――でも、臨也さんって普通とはちょっとかけ離れてる人。…もしかすると、セルティの正体に気付いてるのかもしれない。


 油断ならない人物とはこういう人物を指すのだろうとは思った。


「それにしても、ちょっと遅くないかい?」


 確かに遅かった。すぐに出てくるかと思えば、すでに5分以上が経過している。


 ――説得に失敗したのかな? ううん、それでも一度教えに来てくれるはずだよね。


「ちょっと見て来ようか」

「あ、私も行きます」

ちゃんが一緒に来てくれるなら心強いなぁ」


 ――言うんじゃなかった。


 臨也とはアパートの階段を上って行く。そんな中、セルティは静かすぎるアパートに嫌な予感がしていた。
 アパートの横に止まっている一台の清掃業者の車。


 ――このボロアパートに清掃業者? まさか……




 セルティの嫌な予感は当たっていた。今まさしく帝人の部屋で男二人に帝人が押さえつけられていた。男二人の目的はもちろん、今朝までいた記憶喪失の少女だ。


「し、知りません! か、勘弁して下さい!」

「おい、顔見られてるからよ、この場で始末してやってもいいんだぞ」


 悪人面で悪人の言葉を吐く男。帝人は恐怖から涙が出そうになっていた。先程までは人間では無い『人外』の者を見て驚き、そして喜びすら湧き上がっていたのに――。
 その喜びを打ち消すような人間に対しての恐怖心。自分自身の迂闊さに対しても涙が出そうだと思っていたとき、男が声を上げた。


「誰か来ました!」


 男達は窓から外に飛び出し、少しすると車のエンジン音が響いた。


「た……たたた、助かった……」


 安堵から涙が零れる帝人。慌てて部屋に入って来たは、帝人にハンカチを手渡した。
 セルティは車を追うか悩むが、臨也に必要が無いと言われてその場に留まる。


「あの連中は多分、矢霧製薬の奴らだね。バンに見覚えがある」

「矢霧……製薬……?」

「矢霧製薬って…?」

「最近落ち目で、外資系に吸収される寸前の木偶会社」


 帝人とは顔を見合わせて驚いた。クラスメイトの矢霧誠二。そして、記憶喪失の少女。もしかすると、それら全てに矢霧製薬が関わっているのではないかとは考えた。
 それに対し、帝人の頭の中では様々なものが思い浮かんでは消えていた。ある推論に達したらしく、静かな部屋の中で帝人はパソコンを立ち上げた。


「竜ヶ峰君?」


 起動するまでの間、帝人は携帯を取り出して何かをチェックしている。


「しっ、静かに、ちゃん」


 不思議そうに見守っているセルティの横で、臨也は嬉しそうに目を細めていた。まるで、獲物が見つかったハンターのように。


「正直、疑い半分だったんだが――」


 臨也の言葉を遮るかのように、帝人は立ち上がったばかりのパソコンをネットに繋げ、何かのページにアクセスしている。パスワードの様なものを打ったあと、しばらくはマウスだけを操作していた。かち、かち、と言うクリック音だけを達は聴いていた。
 しばらくして、帝人は三人の方を振り向いた。その目つきにはびくりと肩を揺らした。セルティも後ろで震えている。


 ――本当に、竜ヶ峰君?


 三人に頭を下げる帝人。その姿を見て、何故かも姿勢を正した。


「お願いです。少しの間だけ――私に協力して下さい」


 ――協力…?


「駒は、私の手の内にあります」


 臨也は嬉しそうにセルティの肩を叩いた。


「――大当たりだ」


 セルティとは、臨也が何を言っているのかわからない。ただわかるのは、臨也がかなり興奮しているということだ。その興奮を上回るのが帝人。本当に楽しそうに目を輝かせていた。
 そんな二人についていけないとはセルティを見た。自身、ここまで自身に満ち溢れている帝人は初めてだった。


「ごめんね、さん。セルティさんも」


 今から全てを話す。帝人は、自分自身の全てをセルティ、臨也、に語り始めた――。




 ――はただ静かに様子を見守っていた。今の自分に出来るのはそれぐらいだとわかっていたからだ。


「あの、矢霧波江さんですか?」


 帝人の電話の相手が出たのだと、少しだけ身を固くする。隣で立っている臨也は至極楽しそうな表情で事の成り行きを見ていた。


「私は、竜ヶ峰帝人と言います」


 ――竜ヶ峰君、一人称『私』だった…?


 正直なところ、今のには驚きの連続だった。
 は、静雄の紹介であるチームに所属している。池袋で有名な、カラーギャング『ダラーズ』だ。
 昔いた黄巾賊やブルースクウェアのように色を持たない『無色』で、誰でも気軽に入れるため、誰がダラーズに所属しているのかまったくわからない。そんな集団。
 しかし、そんな集団が今やとても大きなカラーギャング集団となっていた。


 ――まさか、竜ヶ峰君がダラーズの創始者だったなんて。


「あの――、実は私達、ある女性を匿っているんですか――」


 ――って言うことは、ダラーズのリーダーってことだよね…?


「――取引、しませんか?」


 電話の内容はわからないが、先程まで臨也と帝人が話していたことで大体の内容は想像がついている。
 は自分の携帯電話を開き、メールボックスを見た。あるメールを開き、再び内容を確認する。


「…ダラーズの、集会」


 一体どれだけの人が集まるのだろうか。そこで帝人は一体どうするのか。――臨也は、一体何を企んでいるのだろうか。
 電話を終えた帝人と話す臨也を見て、は一人不安を抱えた。







back / next