――入学式。今や青年となった静雄、臨也、新羅、門田達が通っていた来良学園。学校名は当時と微妙に違うらしいが、この学校で高校時代を過ごしていたのは紛れもない事実。
 の横を同級生らしき生徒が何人も通り過ぎていく。私立は公立に比べ何かと厳しいイメージがあったのだが、来良学園はそうでもないようだ。実際、通り過ぎた生徒の何人かは既に私服だった。立ち止まり、は自分の格好を見た。きちんと制服を身に付けた自分。スカートは短いが、逆にここまできちんと着ていると浮いているのではないかと思った。
 ――真面目すぎるのも良くないのか。ふとそう思ったが、はこれからの学園生活を大人しく過ごすためには真面目が一番だと考え、再び歩き出した。


「でも、本当に真面目に制服着てる人少ないね…」


 自由だなぁ、と素直な感想を述べ、貼り出されているクラス表を見に行く。どうやらはA組のようだ。


「きっと自己紹介とかあるよね…。あまり好きじゃないんだよね、自己紹介」


 自己紹介に良い思い出が無かった。名前を言うだけで、敬遠されるのだ。
 それは、彼女が静雄と一緒に居るから、と言う単純明快な理由だけで。
 周りの人間は、と言う一人の人間を『平和島静雄と一緒に居る人間』と漠然と捉えて、ただ勝手に恐れた。彼女のことを良く知ろうともせずに。


「…とりあえず、体育館に入らないと」


 ――自己紹介は気が重いが、新しい学園生活には胸を躍らせていた。
 そこで出会う友人達と、いろんなことに巻き込まれるとは知らずに。





 ――入学式は簡単に終わった。そして、今は各クラスに分かれ、HRが行われていた。


です」


 一瞬にして教室の空気が変わる。自己紹介をして、ここまで騒がれる生徒は居なかった。のときだけ、クラスの生徒全員が彼女の名前を聞いて驚いていた。


 ――わかってたけど、やっぱり自己紹介嫌いだ。


「よろしく、お願いします…」


 は静かに椅子に座った。もう自己紹介はこりごりだ、と思いながら。


「竜ヶ峰帝人です。宜しくお願いします」


 ――すごい名前。素直にそう思った。
 だが、関わることは無いのだろうとも思った。このクラスに居る人間全て、いや、学園中の生徒全てがと関わることを避けるだろうと。
 しかし、その予想はすぐに覆されることになった。


「あの…」

「え?」


 突然、後ろから声をかけられた。先程自己紹介を行っていた竜ヶ峰帝人だ。


「…何?」

「いきなりこんなこと聞くのもなんだけど…」



さんって、有名人なの?」



 ――何を言っているのだろう、この人。



「いや、その、何て言うか、さっきさんの自己紹介のときのクラスのざわつきが異常だったから気になったって言うか…」


 気に障ったらごめんね、と謝る彼から伝わる純粋な疑問。
 そこでも疑問に思ったことがあった。池袋に居るのなら、のことを知らない人間は居ないはずなのだ。ここに居る生徒全員がざわついたのがそれを証明する。そんな中、彼だけが何故ざわついたのかわかっていなかった。


「何て言えばいいのかな…。池袋に居れば、大抵わかることだと思うんだけど…」

「あ、僕、池袋に来たばっかりなんだ。だから知らないことが多くて」


 ――池袋に来たばっかりなんだ。そうか、だからわからなかったんだ。納得。
 しかし、説明しようにも何から説明すれば良いかわからない。
 『平和島静雄と一緒に居るから』とでも言えばいいのだろうか。だが、それだけは言いたくなかった。静雄を悪く言うような感じがするのだ。
 迷った挙句、池袋に居る内にわかると思う。と言う答えに落ち着いた。


「ごめんね、言いたくないことだよね…」

「あ、何て言うか…どう言えばいいのかわからなかったんだ、ごめん」

「ううん、こちらこそごめん。良かったら、これからも仲良くしてね」


 帝人の言葉はとても嬉しかった。が、もし事情を知ってしまったら彼は離れてしまうのだろう、と思った。少し寂しいな、と感じていたとき、ある女子生徒の自己紹介が始まった。


「園原杏里です」


 消え入りそうな声に、二人は視線をそちらに向けた。浮世離れをしているのは自分かと思っていただが、彼女も勝るとも劣らない程だと感じた。一概には言えないのだが、彼女の雰囲気がそう思わせる。
 そして、もう一つ気になったのが欠席している張間美香。彼女が欠席だと言うことが告げられると、園原杏里が反応したからだ。ただそれが気になっただけで、張間美香自体のことは『風邪か何かだろう』と記憶の隅に置いた。


「それじゃあね、さん」

「え、あ、うん、バイバイ…!」


 チャイムが鳴り、HRが終わった。皆が帰って行く中で、帝人はに声をかけた。


 ――こうして挨拶されるのって初めてかも。


 帝人に挨拶され、は素直に感動した。隣のクラスに友人が居るのだろう、帝人はそそくさと教室を後にする。
 も早く帰ろうとリュックを背負い、教室を出た。今日は意外と楽しい一日になったと、そう思いながら。







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