静雄と別れたあと、臨也は池袋の街を一人歩いていた。もちろん、を探すためだ。
情報屋としての伝手を頼りに、臨也は記憶を失う前のが行きそうな場所をしらみつぶしに歩いていく。しかし、の姿を見つけることは出来なかった。が行きそうな場所を歩いているのに――焦りが臨也の中に生まれる。
――シズちゃんが先に見つけたとか?…それは無いか。
鼻で笑い、静雄が先に見つけたのではないかと考えた自分を嘲笑う。焦りとは、こうも変な考えを持たせるのかと思っていると、ジャケットのポケットの中に入れていた携帯が震えた。今は見る気分では無いと放置していたが、切れることなく携帯は震え続ける。
――うっとうしいな。誰だよ。
取り出して確認すると、高校時代の同級生であり、ダラーズのメンバー。門田京平の名前が表示されていた。
一体何の用だと苛立ちながら、臨也は通話ボタンを押して電話に出る。
「…もしもし」
『あー、俺だ。門田だ』
「ドタチンってわかってるよ。それで?用が無いなら切るよ』
『…のことで話があるって言っても切るのか?』
「く、はははっ…へぇ、面白い事言うねぇ」
そう言いつつも、臨也は息を飲んだ。そして後悔する。予想通り、の話に食いついたとでも言いたげな反応が門田から伝わってきたからだ。
まんまと餌に食いついてしまったかと心中で舌打ちをしつつも、臨也は門田から話を聞くことにする。
「話ってなに?」
『今どこにいるんだ?』
「いいから話してよ」
『…俺達は、お前が持っていないの情報を持ってるぜ』
――その言い方だと…電話では話さないってことか。今はこんな遊びに付き合ってる暇は無いって言うのに。
だとしても、臨也が持っていない情報を持っていると言うのなら、行くしかない。臨也は渋々承諾した。指定された場所はここからそんなに遠くはない。そこへ向かおうと歩き出すが、臨也は門田達が持っているという情報に疑問を抱いていた。
の情報は臨也にだけ集まるようにしていたのだ。誰が一体門田達に流したのか。舌打ちをし、苛立ちを隠さないまま、歩き続けた。
「――よう、臨也」
バンの扉に凭れかかるようにして門田は立っていた。いつも近くにいる仲間らしき人間――狩沢達が見えないなと思いつつも、臨也は門田に近づく。すると――
「…ま、何だ。一発殴らせろや」
いきなり胸倉を掴まれ、門田から右ストレートを食らう。構えていなかった臨也は、勢いよく吹っ飛び、道端に転がった。
――臨也の機嫌の悪さは頂点に達した。何故いきなり殴られなければならないのか。そう訴えるかのような目つきで門田を睨み、口から流れる血を拭う。
「何で殴るんだって顔だなぁおい」
「わかってるんだったら話は早い。…どういうつもりだよ」
「…お前、に何したんだ」
「何したって何が」
「もう一発殴られてぇのかよ臨也ぁ」
倒れた臨也の元へ行き、再び胸倉を掴む。軽口を叩くことなく、臨也は胸倉を掴んでいる門田を睨んだ。
「お前の手のひらの上で踊ってた俺達は、さぞや滑稽だっただろうな」
でも、そんなことはどうでもいいんだと門田は吐き捨てる。臨也は何となくだが、門田が言おうとしてることに気がついた。ジャケットのポケットの中にあるナイフに触れていた手を外に出す。
「を傷つけて、静雄を振り回して…お前、何がしたいんだよ」
「何がしたい、か。さぁ、何がしたいんだろうね。…もう、俺にもわからないんだよ」
本当に臨也自身もわからなかった。ただ、最初は、疑問の解決が目的だったのは覚えている。
臨也は人間を愛している。だから、人間も自分を愛するべきだと思って止まない。そんな中で生まれたある疑問。それは、どこにでもいるカップルを見て浮かんだ疑問だ。
一人の人間から愛されると言うのは、どういう気分なのかと――。
その疑問をどうやって解決しようか――。そう考えていたとき、臨也は静雄を愛するを目の当たりにする。他の人間に目移りすることなく、ただひたすら一途に静雄を想い続ける。臨也の中である考えが浮かんだ。
――の想いを、自分にシフトさせれば疑問は解決するのではないかと。
「それでを連れ去って、記憶消して、何もかもを嘘で書き換えたのか」
「これで解決するって思ってたよ。でも、俺が予想してなかったことが起きた」
「…お前自身が、を愛するようになったってところか」
「正解。…人間を愛してた俺は、その人間の中でも特別に愛する人間が出来たんだよ」
――それが、だった。
今回の騒動の発端となった部分を知り、門田は渋い表情を浮かべた。
臨也自身は、ただ純粋に疑問に思ったのだろうが、それを静雄とをわざわざ引き裂いてまで解決させなければいけなかったのだろうかと。
だが、事態はもっと別の方向へと動いている。騒動を終結させる鍵は、今や臨也や静雄ではなく、が握っているのだ。
「なぁ臨也…俺が何でお前に電話掛けたかわかるか」
「殴りたかったから、の話で釣ったんじゃないの?」
「、記憶戻ったぞ」
その言葉に臨也は大して驚かなかった。いつかの記憶が戻るのは明白だったからだ。
「さっきまでここにいたんだがな、俺の電話の相手が気になった狩沢達がお前と静雄の名前を出したんだ。それを聞いて、会いたくないっつって走ってどこか行っちまった」
「会いたくない、か。ははは、今までのこととか、全部嘘だってわかって嫌われたかな」
「…どうだかな」
「何が言いたいのさ」
「…とにかく、俺が静雄じゃなくてお前に電話したのは、今のと話さねぇといけねぇのはお前だと判断したからだ」
門田の言葉に臨也は大声で笑った。馬鹿にされているように感じ、門田は乱暴に胸倉から手を話す。
「痛…それにしても、くははっ、ははははははは!何それ、どうやってそう判断したのさ!」
「を苦しめたのが、お前だからだよ。会って、謝れ。…そのあとは、が答えを出すだろ」
「答え、ね」
「早く行けよ。…俺が、お前をもう一発殴る前によぉ」
臨也は無言で立ち、門田の後姿を少し見てから立ち去った。
――ドタチン、答えはもう出てるんだよ。
そう自嘲気味に笑いながらも、臨也は真剣な表情でを探すために走り出した。
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