――あなたの過去、現在、未来。何でも占います。そう、何でも。
放課後。軽い足取りで廊下を歩く正臣の手には一枚の紙。それも、表も裏も真っ黒な紙だ。傍から見ると、その紙はとても不気味なのだが、正臣はとても楽しそうな表情を浮かべている。目的の場所へと着いたのか、ぴたりと立ち止まり、すぅっと深く息を吸う。そして――
「みっかどぉー!!」
正臣の帝人を呼ぶ声は、教室中に響き渡る。教室に残っていた生徒達は静かになり、皆一斉に教室の扉の方を振り向いた。その視線に正臣は「自分は皆に見られて照れています」と言った仕草を取り、生徒達からのため息を誘った。
大声で名前を呼ばれた張本人――帝人は呆れた顔で正臣を見ていたが、正臣が持っている黒い紙に視線がいった。とても異質。それでいてとても不気味なその紙。何故正臣はそんなものを持っているのか。まさか、正臣がこのクラスにやってきたのはその紙を見せるためではないだろうか――。途端に帝人の背筋に悪寒が走る。ぶるりと震え、近づいてくる正臣を見た。
「やぁ杏里!やぁ!ついでに帝人!この俺が直々に来てやったぜ!」
「あれだけ大きな声で僕の名前叫んでおいて、ついで扱いなんだ。まぁいいけど…その紙…何?」
「よくぞ聞いてくれた!これは、これは…偉大なる神…いや、紙!」
「√3点」
「またそれか!」
帝人と正臣のやりとりに笑みを零しつつも、杏里とも正臣が持っている黒い紙を見た。の頭に過ぎったのは、一昔前に流行った不幸の手紙。隣にいる杏里の腕をつんつんと突き、耳元で話す。
「…不幸の手紙かな?」
「不幸の手紙?」
「昔流行らなかった?この手紙を回さなければあなたは死にます、みたいな…」
「あった。あったけども、。この紙は不幸の手紙なんかじゃない。寧ろ…幸運を呼ぶ紙だ!」
――話、聞いてたんだ。
よく聞こえたなぁと思っていると、正臣はと杏里の前でその紙を広げた。
「…あなたの過去、現在、未来。何でも占います。そう、何でも」
杏里は黒い紙の真ん中に赤色で書かれていた小さな文字を読んだ。いかにも胡散臭い内容に、三人は疑いの目を正臣に向ける。そんな三人に、正臣は人差指を立てて何度も横に揺らした。
「ちょっとちょっとぉ、最近池袋で噂になっている占い師、知らない?ねぇ、知らない?」
「わからないです…。さんは?」
「わ、私もちょっと…。竜ヶ峰君は?」
「僕も知らないよ…。あ、でも紀田君は当然知ってるんだよね?」
「ふふーん、当然、俺も知らない」
――うん、そう来ると思ってたよ。
帝人は予想通りの展開に肩を落とし、ため息をつく。そんな帝人の肩を正臣はばしばしと強く叩き、腕を回した。
「いや、でも噂は知ってるぜ?何せ、この紀田正臣様だからな!さぁ敬え、帝人!」
「どうでもいいから、その噂を教えてよ」
帝人のつっこみに、正臣は渋々話を始めた。噂自体を知ったのは、ナンパをしているときのことだった――と言うことから。
それ自体につっこみたい気持ちを抑え、三人は正臣の話を聞く。
最近池袋で噂になっている占い師――店の場所を転々と変え、どこで開くかはその占い師の気分らしい。今は池袋の中を転々としているそうで、すぐにその占い師の店だとわかる外観をしているとのこと。
「…で、当たるんだってよ」
「占いが?」
「そ!占い方は、水晶を見てるだけらしくてすっげぇ胡散臭いんだけど、それでも当たるから今では池袋にいる全ての女子の話題を、この占い師は掻っ攫ってるってわけだ」
「それで、正臣もナンパのネタにしようと、その占い師に占ってもらいたいの?」
「惜しい!まぁそれが九割だが、残りの一割は違う。ってなわけで…行くぞ!」
強引に背中を押され、帝人達は正臣と共にその占い師を探すことになった――。
正臣が手に持っていた紙は、今日クラスメイトから貰った紙だそうだ。そのクラスメイト曰く、紙を配っていたのは露西亜寿司の近くだったとのこと。
「…もしかしたら、占い師さんは露西亜寿司付近でお店を開いてるかもね」
の言葉で、帝人達は露西亜寿司のところへ向かった。そして、その言葉を信用して正解だったと思った。
今、帝人達四人の前には、とても、とても怪しいテントが立っていた。黒い布で覆われ、全体的には四角いテント。それも、露西亜寿司の隣に立てていた。
「ねぇ、正臣君…。本当に、このテントで合ってるの…?」
「この怪しさからして正解だろ!…よし帝人、杏里、先に入れ」
「ちょ、ちょっと!何で僕と園原さんが先に入らないといけないのさ!」
「いいからいいから!ほら、も手伝え!」
何となく正臣の魂胆が読め、帝人の背中を押す正臣の隣でも杏里の背中を押す。戸惑いの声を上げる杏里に謝りつつも、二人は帝人と杏里を先に中に入れることに成功した。そして、正臣がテントの中に入り、も正臣に続いて入ろうと足をテントの中に入れたときだった。
「おめでとうございまーす!」
の頭上で鳴らされるクラッカー。舞い落ちる小さな紙と長い紐。より先に入っていた帝人達三人は、呆然と立っているを見た。続いてみるのは、パチパチとの隣で手を叩いている全身黒ずくめの人物。唯一わかるのは、布で隠れていない目元だけ。
「君は、この店に来た1000人目のお客様だ!おめでとう!おめでとう!」
どうやら、この全身黒ずくめの人物は、最近池袋で噂になっている占い師のようだ。
記念にとその占い師はポケットから何かを取り出す。いまだ呆然としているの目の前で手のひらを開き、取り出したものを見せた。
それは、淡く光る石。呆然としていたも、その石が放つ淡い光にようやく我を取り戻した。大きさはビー玉とほぼ同じ大きさだ。それをまじまじと見ていると、その占い師はの手を取り、石を握らせた。
「…え!?」
「記念に、と言っただろう?それは君にあげるよ。プレゼントだ」
「プレゼント…ですか?」
「あぁ、プレゼント」
占い師は、目元を細めた。きっと笑っているのだろう。優しい笑い方をする人だと思っていると、正臣がに近づいてきた。
「うわ、光ってるじゃん…。あ、もしかして、この石を持ってると良い事があるとか!?」
「あたらずといえども遠からず、かな。この石はね――」
――何が起きるかわからないんだ。
「何が起きるか、わからない?」
「そ、そんな石をさんに渡しても大丈夫なのですか…?」
何が起きるかわからない――。その言葉に帝人と杏里は心配になる。だが、占い師は肩を震わせて笑うだけ。そこまで心配する必要は無いとでも言うかのように。
「ごめん、説明不足だったね。…確かに、この石は何が起きるかわからない。だが、悪い事は絶対に起きないよ。ただ、何が起きるかわからない」
――何で二度言うんだ。
四人は心中で占い師につっこむ。不安要素満載な石を受け取ってしまったは、手のひらの上で淡く光る石を見た。確かに何か起きそうな気はするが、何が起きるかわからないと言われると不安になる。
――返してしまおうか。はそう思い、占い師に手を伸ばす。が、拒否されてしまった。
「何か起きたとしても一回限りだから。それに、悪い事は起きないしね」
綺麗な石だとは思うが、持っていて不安になる石だ。気が重くなると思っていると、正臣がわざとらしく大きな声を上げた。
「あ、忘れてた!今から俺はデートと言う名の用事があったんだ!ってなわけで、占い師さん!この二人…竜ヶ峰帝人と園原杏里の相性占いや恋愛占い、してやってください!」
「ちょ、何言ってるのさ紀田君!」
「1000人目の客らしいし、も占ってもらいたいだろう…。だが!はこれから俺とデートと言う名の用事がある。今度また来ますんで、そのときはを占ってやってください…!それじゃ行くぞ、!」
「へ?正臣君!?」
正臣に手を引っ張られ、はテントを出る。もちろん、手には先程受け取った石。
二人はダッシュでそのテントから離れ、後ろから聞こえる帝人と杏里の声を無視して通りに出る。悪だくみが成功したと正臣は笑みを浮かべ、二人は息を整えつつゆっくりと歩いた。
「明日は怒られるだろうけど、楽しみだなー!どんな結果になるのやら…」
「やっぱりこれが目的だったんだね」
「さっすが!偉いなー!」
「いたたたた!」
の肩を抱き、正臣は頭をぐりぐりと押し付ける。正臣曰く、何でも、ちょうど良い位置にの頭があるのが悪いらしい。
頭をの頭に押し付けつつ、正臣は握られているであろう石を思い出した。
「ま、何が起きるかはわからないって何回も言ってたからさ、本当に何が起きるのかはわからねぇんだろうな」
「…悪い事は起きないって言ってたけどね、それでも怖いよ」
「でも、俺としては何か起きてほしいなぁ。あ、起きたらちゃんと教えろよー?」
「他人事だと思って…。まぁ、何か起きれば、ちゃんと言うよ、起きればね」
そして、正臣とは別れ、それぞれ家路を辿る。その間も、は石のことを考えていた。
何か起きる前に処分してしまおうかと考えたが、占い師は『1000人目のお客様だ!』と喜んでに渡していたのを思い出し、処分と言う考えは無くした。
では、この石をどうするか。他人にあげるわけにもいかない。
「…何か起きたときに考える――じゃ遅いような気もするし、でも…うーん…」
何が起きるのだろうと興味を持っている自分もいる。とりあえず、今日一日様子を見てみようとはドアノブに手をかけた。
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