――が静雄と再び暮らし始めて数日後。


「良い天気だね、“セルティ”」

「にゃあ」


 ベランダに出て洗濯物を干す。の足元には黒猫の“セルティ”がいた。今までが家にいなかったからか、“セルティ”はここ数日ずっとの傍を離れなかった。


「ごめんね、心配掛けて」


 はカゴをリビングに置き、足元にいる“セルティ”を抱き上げる。壁に凭れ、少し身体を斜めにして、そこから見える景色を眺めた。
 今日は良い天気だ。近くにある公園では、家族がシートを敷いてお弁当を食べている。


「いいな、気持ち良さそう」

「なら、出かけるか?」


 の目の前には静雄が立っていた。ラフな服装でベランダに出て、伸びをする。その姿を見て、“セルティ”も気持ち良さそうに欠伸をした。その姿に小さな笑みを零し、は“セルティ”の喉を撫でた。ごろごろと気持ち良さそうに喉を鳴らす“セルティ”に、静雄は頭を撫でてやる。
 ――このようにして穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだと思った。今までは隣にがいなかった。求めても求めても、見つからなかった。
 だが、今は隣にいる。は、静雄の隣に確かにいるのだ。


「出かけるって、いいの?」

「仕事も休みだしな。行きたいとこあるか?」

「じゃあ…池袋巡り」

「…あー、なるほどな。よし、準備するか」

「“セルティ”お留守番しててね」


 にゃあ、と小さく鳴く“セルティ”には微笑んだ。
 池袋巡り――。いまだ戻らない記憶の補完がしたかった。静雄もそれがわかったのだろう、すんなりと頷いた。
 そして、二人は池袋の街へと赴いた。様々なところを歩き、記憶が無く、わからないところは静雄がに教える。


「昼は…マックとかでいいか」

「ファーストフードから離れない…?」

「じゃあどこが良いんだよ」

「え…っと、き、記憶戻ってないからわからない」

「こういうときだけそんなこと言うのかよ、この馬鹿」

「馬鹿って何?馬鹿って言うほうが馬鹿なんだよ、知ってた?」


 そんなやりとりをしつつも、と静雄はしっかりと手を絡め、離れないように歩いていた。池袋の街では軽い騒ぎになっていた。久々に静雄とが二人揃って歩いているのを見たと。
 その騒ぎの中に、情報屋――折原臨也の姿もあった。人混みに紛れているため、臨也の姿がわからないのだろう。二人は臨也の前を通り過ぎて行く。


「シズちゃんが幸せそうにしてるのはムカつくけど、君が――が幸せそうで良かったよ」


 ――俺の前では浮かべなかった笑み。きっと、今の君は本当に幸せなんだろうね。


 悔しいと思いつつも、臨也自身どこか晴々とした気分だった。


「…お幸せに、


 その言葉が聴こえるわけがない。それでも、は臨也に話しかけられたような気がして、後ろを振り向く。しかし、臨也の姿が見えない。気のせいだったのか。


「おい、?どうしたんだ?」

「ううん、何でもないよ」


 ――お幸せにって、言われたような気がしたんだけど…。


「なら行くぞ。マックが嫌ならロッテリア…」

「だから、ファーストフードから離れてってば!」


 静雄と過ごした記憶は、まだ戻らない。それでも、は幸せだった。
 これからたくさんの思い出を、静雄と共に作っていけるから――。








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