「面白くない結末ね」


 波江は素直な感想を述べた。面白くない、楽しくない、つまらないと指を三本立てて臨也に見せる。
 しかし、臨也はそんな波江を鼻で笑うだけ。気が済むまで好きなだけ言うといい。今の幸せな自分に何を言っても無駄だと言うかのように。
 やはり面白くない――波江はため息をついた。特別に愛する人間が隣にいて、臨也がとてもとても幸せそうにしているからだ。


 ――この男が幸せなんて、面白くもないし、見ていて腹立たしいだけよ。私だって誠二と…誠二と…っ!


「波江さーん?目つきが怖いけど」

「あら、そうかしら」

「そんなに俺が腹立たしいのかな?」

「わかってるならそのにやけ顔、どうにかしてくれるかしら」

「無理無理。俺にはどうすることも出来ないよ」


 波江の言うとおり、臨也は終始嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 ――仕方ないじゃないか。嬉しいんだから。


「じゃ、出かけるから今日はもう帰っていいよ」

「言われなくてもムカつくから帰るつもりだったわ」


 鞄とジャケットを持って、波江は足早に部屋を出て行った。大きな音を立てて扉が閉められ、波江の苛立ちの度合いが手に取るようにわかった。
 やれやれと呆れたように笑みを零した臨也は、まだ眠っているを起こしに行く。


「出かけるよ。ほら、起きて」

「ん…まだ……」

「まだ寝てたい、じゃないよ。ほら早く。楽しみにしてたんだからさぁ」


 の隣に寝転がり、ふにふにとの頬を指でもてあそぶ。くすくすと無邪気に笑い、臨也は幸せを実感した。




「――これで良かったのか?」

「俺にあいつを縛る権利なんて無いっすから」


 隣にいる上司――トムの問いに静雄は呟いた。
 静雄自身はこれで良かったとは思えないし、いまだ納得出来ない部分がある。だが、が決めたことなら何も言えない――そう思っていた。の意思を無視し、縛り付けてしまうことだけはしたくないのだ。


「…俺は戻ってきてほしいっすけどね。でも」

「でも?」

「あいつが、が幸せなら、それでいいかもしれねぇって思ってます」


 サングラスを上げ、静雄は空を見上げた――。


「――?何してるの?」

「空、見てました」


 は空に向かって手を伸ばし、にこりと微笑む。その手を臨也は握り、指を絡めた。


「ほら、行こう」


 小さく頷き、臨也と共には歩き出した。
 嘘ではない、二人の本当の思い出を作っていくために――。








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