雪が深々と降る中、イナズマジャパンの宿舎ではマネージャー達が主催のクリスマス会が開かれようとしていた。
「乾杯!」
キャプテンの円堂の合図で、選手達は一斉にグラスを掲げた。クリスマス会が始まる。
選手達にも休息が必要だろうとマネージャー達が考えたクリスマス会。響木や久遠に許可を貰いに行った時は驚かれたが、特訓が終わった後ならと許可を貰う事が出来た。
「皆さん喜んでくれてるみたいで良かったです!」
「うんうん、本当に良かった!」
「お兄ちゃんにバレそうになった時は焦りましたけどね……」
このクリスマス会は選手達には極秘で進める事になったので、慎重に準備を進めていたのだが、一度鬼道に見つかりそうになった。そのときは春奈が機転をきかせ、鬼道の興味を別の方へと向ける事で何とか回避。あのときはマネージャー全員が息を飲んで春奈と鬼道を見守っていた。
選手の誰にも知られないように準備を進めるのは大変な事だったが、マネージャー達はやり遂げる事が出来た。そして、皆が楽しんでくれている。これほど嬉しいものは無い。
「ふふ、さんと音無さんが一番張り切って準備してたね」
「だって、クリスマス会だよ? ね、春奈ちゃん」
「そうですよ、クリスマス会ですよ! わくわくするじゃないですか!」
「そ、そうだね、うん……」
「あ、私、お兄ちゃんにプレゼント渡してきますね!」
鬼道へのプレゼントを手にした春奈は、一度彼の元へと行きかけるが、何故かこちらへ戻って来た。
「センパイ」
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げるの耳元に顔を近づける。
「立向居くんにプレゼント渡さないんですか?」
「……っ!」
顔を真っ赤にして驚くの反応を見た春奈は、手を振って鬼道の方へと走って行った。
その場に残ったは、視線を彷徨わせた後、クリスマス会を楽しむある選手に視線を向けた。相手はもちろん、先程春奈が口に出した選手。立向居勇気だ。
「渡すつもりだけど……」
恥ずかしさが勝り、中々渡す事が出来ない。クリスマス会が始まる前に渡そうとしたのだが、何と言って渡せばいいかわからなくなり、断念。立向居に渡す予定のクリスマスプレゼントは、未だの手元に残っている。
――春奈ちゃんが羨ましいや。
鬼道にクリスマスプレゼントを渡しに行った春奈は、彼と仲良く喋っている。
――はぁ……。どうしよう。
彼と、立向居に渡したい。そして、話したい。普段は特訓や自主練習などで話す機会などほとんど無いに等しい。食事の時間に少し話せる事が出来れば良いほうだ。
自分から動かなければ、何も始まらない。は目を瞑って深呼吸をした。
今、立向居の近くには壁山、木暮、綱海がいる。その三人が立向居から離れれば、立向居の所へ行こう。そう決めて目を開いた瞬間、に声をかけようとしていた立向居が目の前に立っていた。
「わ、わぁ!」
「え!? ど、どうかしましたか!?」
何でもないと首を横に振り、急いでプレゼントを後ろに隠した。の素振りに立向居は首を傾げたが、特に質問などは無かったので、安堵の息を漏らした。
「そ、それよりも立向居くん、ど、どうしたの?」
「さんを誘いに来たんです」
「へ?」
「外、行きませんか?」
――外に?
何故外なのだろうか。そう思いながらも、立向居から誘ってくれたのが嬉しくて、は勢いよく首を縦に振った。
「じゃあ行きましょう! 皆さんに見つからないように」
「……うんっ」
静かに扉を開け、二人はクリスマス会が開かれている部屋を出る。もちろん、立向居に渡すプレゼントも忘れずに。
外は雪は止んでいたが、薄らと積もっていた。普段とは違う白いグラウンドに、二人で感嘆の声を上げる。
「真っ白ですね」
「うん、真っ白」
張り詰めた空気と寒さに少し耳が痛いが、あまり見ない真っ白なグラウンドに二人で足跡をつけに行く。
「あははっ! 楽しいね!」
足跡をつける事に集中していた為、前を見ていなかった。今足跡をつけた場所から少し離れた所へつけに行こうとジャンプをすると、足跡をつける予定だった所のすぐ近くに立向居がいた。彼の存在に気付き、慌てて離れようとしたが空中ではどうする事も出来ない。着地すると同時に立向居の胸へ飛び込んでしまった。
立向居は少し驚いていたような気がしたが、頭上から笑い声が聴こえ、顔を上げるのと同時に抱き締められた。
「た、立向居くん!?」
「えへへ、捕まえました」
――い、いつもより近くに立向居くんがいる。
そう考えると、身体が固くなってしまった。緊張しているのが相手に伝わってしまうときゅっと目を瞑った。
――あれ。
手を置いているところが立向居の胸の近くだからだろうか。彼の心音が伝わって来る。
――立向居くんも、緊張してる……?
「す、すみません。いきなりこんな事しちゃって」
「う、ううん!」
「今日は、クリスマスだから。……特別な事、したくて」
特別な事がしたいのは、も同じだ。そして、渡すのなら、今だろうと思った。ポケットの中からそっとプレゼントを取り出す。今日のために頑張って作ったものだ。少しだけ離れ、立向居の前にプレゼントを出す。目をぱちくりさせる立向居に、は上目遣いで微笑んだ。
「これ、クリスマスプレゼント」
「オレにですか!?」
「うん、そうだよ」
「でも、オレ、何も用意出来てなくて……」
「いいんだよ、こうやってクリスマスに立向居くんと過ごす事が出来たから!」
それが自分にとってのクリスマスプレゼントなのだと笑うと、立向居も照れくさそうに笑った。
からプレゼントを受け取り、中身を取り出す。
「わぁ……!」
中から出てきたのは、ストラップ。だが、ただのストラップでは無い。
「私の携帯には、立向居くんがついてるんだよ。ほら!」
そう言っては携帯電話を取り出した。携帯電話についているストラップは、立向居に似せた小さな人形。この日に合わせて作ったの手作りだ。そして、立向居には自身に似せた人形をつけたストラップを渡した。
初めて作った為、些か歪な所は見受けられるのだが、その歪さがまた堪らなく立向居の心をくすぐった。感極まって再びを抱き締める。
「ありがとうございます! さん!」
「う、うん! 喜んでもらえて良かった!」
「オレ、大切にします! 部屋に帰ったら早速つけますね!」
――本当に、喜んでもらえて良かったよぉ……。
は夏未までとはいかないが不器用だ。この人形も出来あがったときは本当に嬉しかったが、しばらくしてその出来にがっくりと肩を落とした。作り直したいが作り直す暇も無く、結局この歪な人形ストラップを渡すしか無かった。笑われるかもしれない、嫌な顔をされるかもしれない。そう思っていたが、立向居は嬉しそうに満面の笑みを浮かべてくれた。今度はが感極まって涙腺が緩み始める。
何故涙が出るのかと顔を俯かせていると、喜びに浸っていた立向居は慌ててに声をかけた。
「さん、どうしたんですか!?」
「な、何でもないの! 立向居くんが喜んでくれたのがすごく嬉しくて……!」
「ハンカチ……あ、持ってない! ティッシュも無いし……袖でいいかな」
「本当、良かったぁ……!」
の涙をユニフォームの袖で拭う立向居。泣かないでほしい、と立向居に笑いかけられると、泣くのを止め、は鼻をすすった。
「うぇ……私、みっともない……」
「そんな事無いですよ、可愛いです」
「……っ!」
「か、可愛い……!?」
「はい!」
今度は驚きと羞恥で顔が真っ赤になる。
「た、立向居くんも!」
「え!? オレが可愛いんですか!?」
言葉が足り無さ過ぎるのは反省しないと、と思うのは何度目だろうか。可愛いと言われたと思いこみ、どんな反応を返せばいいのか迷っている立向居に、は違うと首を横に振った。
「違う違う! ……立向居くんも、かっこいいよ!」
「……え」
「かっこいいよ! だから、だから……!」
「だから……?」
「わ、私だけの、立向居くんでいてほしいな、なんて……」
――何言ってるんだろう、私。
立向居は、に対して敬語を使う。一つ年上だからだろう。だが、同級生には敬語は使わない。
羨ましかった。立向居と同い年の人達が。
敬語が、自分と立向居の間に壁を作っているような気がして、彼は同級生の方が付き合いやすいのではないかと考えた事がある。そして、それが現実となり、離れてしまうのではないかと不安だった。
「わかりました!」
「へ?」
「オレ、さんだけのオレでいますよ。だから、さんもオレだけのさんでいてください」
「立向居くん……」
「約束ですよ?」
「……っ、うん!」
立向居が小指をの前に出す。彼の考えがわかったは、嬉しそうに微笑んで自分の小指を絡めた。
「FFIが終わると、オレも福岡に帰りますけど……」
「うん」
「ずっと、さんの事、好きですからね」
「私も。私も、ずっとずっとずーっと、立向居くんの事、好きだから」
絡めていた小指を解いた瞬間、止んでいた雪が再び降り出した。
「わぁ、雪!」
雪を見て思い出したかのように身体が寒さで震えた。薄着で出てきたのは間違っていたと手に息を吹きかけていると、立向居の手がの手を包んだ。彼の手も寒さで冷たいのだが、何故かとても暖かく感じる。何よりも、心地良い。
「やっぱり、さんの手、小さいですね」
「立向居くんは大きいね」
「この手で、イナズマジャパンのゴールを守って、さんも守ります」
「……今日の立向居くん、どうしたの?」
「え、オレ、おかしいですか?」
「お、おかしいとかじゃないんだけど、その……」
――普段なら言わないような事を、さらって言ってるから。
とは言えず、口を噤んでいると、立向居が急に吹き出した。
「そうですよね、オレもちょっとおかしいなって思ってます」
の手を包む立向居の手に少しだけ力がこもる。
「きっと、クリスマスって言うイベントに影響されてるんですよ」
「……それ、何となくわかるかも」
「さんも?」
「うん、影響されてるなーって思う」
クリスマスとは、恋人達にとって特別な日。
確かにと立向居は中学生だが、立派な恋人同士だ。年齢的には若すぎるかもしれないが、やはりクリスマスは特別な日だと言う認識がある。
「そろそろ中に入る?」
「そうですね。雪も降ってきましたし……」
「でも、もうちょっとこうしていたいかも」
クリスマスが終われば、また立向居は特訓の日々。こうして二人きりになれる機会などもう無いだろう。ならば、今こうして二人きりなのだから、思う存分楽しみたい。
「あ、でも風邪ひいちゃうね。中に入ろっか」
今日は本当に楽しかった。これ以上望むのは駄目だとは笑って立向居の手を離した。宿舎に向かって歩き出した瞬間、後ろから立向居に手を握られる。
「どうしたの?」
「あ、あの!」
「?」
「や、やっぱり何でもないです! 中に入りましょう!」
「うん……?」
手を握ったまま、二人で宿舎に戻る。
中はやはり暖かい。そして、二人が抜けたクリスマス会はまだまだ続いており、楽しそうな声が入口付近まで響いてきている。
「今中で何してるのかな……?」
クリスマス会が開かれている部屋の扉を開こうとしたとき、立向居の手がそれを遮った。
「立向居く――」
今まで姿が無かったを見つけ、春奈が駆け寄って来る。
「センパイ! 彼に渡せましたか!?」
「え!? あ、えっと、う、うん!」
「……センパイ、何かありました?」
「な、何でも無い!」
思い返すだけで、顔が赤くなる。
「わ、私、何か飲み物取って来る!」
その場を離れ、飲み物を手に取った。一口だけ飲んで、一息ついた。
少し離れた所で仲間達と笑っている立向居を見る。先程の事など気にしていない様子ではしゃいでいた。
「こんなのずるいよぉ……」
あのとき、扉を遮った彼は、が振り向いた瞬間、唇に触れた。
『……メリークリスマス、さん』
その後、何事も無かったかのように扉を開け、中へと入っていった。
再びの顔が赤くなる。あのような不意打ちは反則だと、心の中で呟きながら。唇には、まだ感触が残っている。消えてほしくない、そう願いつつも、やはり恥ずかしい。
キスとは、そういうものなのかと、は唇に触れた。
「……メリークリスマス、立向居くん」
呟いた時、立向居がこちらを見て微笑んでいた事に、は気付いていなかった。
おまけ
「あれ、立向居。そんなストラップつけてたっけ?」
「貰ったんですよ」
「へぇ、誰から?」
綱海からの質問に立向居は幸せそうに微笑んでこう答えた。
「オレの、大切な人からのプレゼントです」
「大切な人って……お前、彼女いたのかよ!」
紹介しろよ! と叫ぶ綱海に立向居はただただ笑って誤魔化すだけだった。
「――くしゅん!」
「風邪ですか?」
「うーん、最近寒いからね……」
「あ、でももしかしたら噂されてるのかもしれませんよ?」
「えー? それは無いよ」
春奈の言う通りだったのは言うまでも無い。
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