『昨日パソコンでいろいろ調べてみたけど、このケーキがとても美味しそうで……』

「チョコレートでコーティングされてるケーキ?」


 セルティのPDAの画面に映るのは、チョコレートで周りがコーティングされたケーキ。果物もたくさん盛り付けられており、確かに美味しそうだ。


「このケーキなら今日持ってきた材料と前に買った材料で出来るね」

『じゃ、じゃあこのケーキ作れる!?』

「うん、作れるよ!」


 の言葉にセルティは嬉しそうに手を叩いた。エプロンを身に付け、キッチンに立つ。新羅と二人で暮らしているセルティは、料理はするのだがケーキなどお菓子類はあまり作った事が無い。新羅に頼まれれば何でも作るのだが、首が無いセルティは味見が出来ない為、作った料理を彼に食べさせるのは正直気が引けていた。
 だが、今日は違う。今日は味見が出来るがセルティの隣にいるのだ。それだけではない。は静雄と二人暮らしで、家事全般は彼女が担当している。――そう、は料理が出来るのだ。
 今日は新羅に美味しいものを食べさせてあげる事が出来る――。セルティは腕まくりをして気合を入れた。


「セルティ、気合入ってるね」

『今日はクリスマスだからね! 気合も入るよ!』

「あ、そうだ」

『ん?』

「今日は本当にありがとう」


 セルティに頭を撫でられつつ、は今回クリスマスパーティーを開くきっかけになった出来事を思い出していた。
 それは一週間前の出来事。授業を終え、帰宅しようと歩いていた時だった。後ろから肩を叩かれ、振り向くとそこには慌てた様子のセルティがいた。


「あれ、セルティ」

! ど、どうしよう!』

「……何かあったの?」

『クリスマスって何をすればいいんだ!?』


 突然の事で一瞬頭が真っ白になった。


「いきなりだね……」

『今までクリスマスは新羅と過ごしてきた。でも! 今年は今までとは事情が違うんだ!』


 今までとは事情が違うと慌てるセルティに、はよくわからないと首を傾げる事しか出来ない。事情が違うと言われても、何の事情なのかにはさっぱりわからないのだ。


『何て言えばいいのか……。今までは、新羅とは特別変わった関係とかじゃ無かった』

「うん」

『でも今は……その……』

「今は恋人同士だから、今年のクリスマスは今までと同じで良いかわからないって事?」


 それだ! と言わんばかりにセルティは首を何度も何度も縦に振った。


「うーん……」

は静雄とどうやって過ごすんだ?』

「わ、私!? 私は……」


 そこでふと気付く。クリスマスまであと一週間。
 プレゼントは考えてある。だが、期末テストの勉強などで渡そうと予定しているプレゼントの用意がまだ出来ていない。
 もっと言うと、クリスマス・イヴとクリスマスのどちらにも予定が入っていない。


 ――あ、あれ。


「セルティ……私じゃ参考にはならないよ……」

『ど、どうした!』

「24日と25日のどっちにも、静雄さんと過ごすとかそんな予定入ってないもん……」

『……』


 何かを考える素振りをするセルティ。しばらくして、ポン、と手を叩いた。


『私も新羅と過ごす予定は入ってないんだ。だから、今から一緒に過ごす予定を入れない?』

「予定を、入れる?」


 ここで今日のクリスマスパーティーの企画が出来あがった。恋人と過ごす予定が無いのなら、自分達で予定を作って入れてしまおうと。
 ただし、二人とも恋人となった相手をどう過ごせばいいかわからないため、こうしてWデートのような形で話が進んだのだ。


「でも、静雄さん達もどうすればいいか悩んでたみたいだね」

『うん。ま、今回は私達から動いたんだから、来年は向こうから動いてほしいところ』

「あはは、そうだね」

『……ところで。チョコはお鍋に入れて溶かせばいいんだよね?』

「ち、違う違う! そのやり方で溶かしちゃ駄目!」




 ――セルティとがケーキを作っている頃、新羅と静雄は二人に渡すクリスマスプレゼントを買いに出掛けていた。


「おい、新羅」

「何?」

「さっきから何でリボンばっかり見てんだよ」


 静雄の言う通り、新羅はプレゼント用のリボンばかりを熱心に見ていた。これでいいか、こちらの色も捨てがたい。など独り言を呟きながら。


「リボンを買って僕自身に巻いて『セルティ! ほら、僕がクリスマスプレゼントだよ!』って言ってみたくて」

「なるほどな、セルティに殴られたいって事か」

「冗談に決まってるだろ! そんな静雄はどうするのさ」


 その言葉に開きかけていた口を閉じると、静雄は目線を新羅から外した。何か言いにくいもの渡すつもりなのか、それとも何も考えていないのか。だが、後者は無いだろうと新羅は確信していた。先程から静雄はどこか落ち着きが無いのだ。もしかすると、既に何かプレゼントを用意しているのかもしれない。では、その用意しているプレゼントとは何だろうか。ただただそれが気になり、新羅は静雄の視界に入ろうと今向けている彼の視線の先に移動した。


「いや、まぁ……」


 再び視線を逸らす。すかさず新羅は移動し、静雄の視線の先に立った。


「静雄こそリボンを巻いてちゃんにいたたたた! 痛いよ静雄!」

「そんな事するか」


 これは何を言っても教えてくれる事は無いだろうと思った新羅は、静雄につねられたところをさすりながらある店に目を向けた。
 そこはシルバーアクセサリー専門店。店の外観が新羅好みの雰囲気を醸しだしている。セルティのあの白い首に映えるアクセサリーが見つかるかもしれないと思った新羅は、その店に行く事にした。


「僕はこのお店でセルティへのプレゼントを見つける事にするけど、静雄はどうする?」

「……俺は別の店に行ってみるわ」

「わかった、また後でね」

「あぁ」


 店に入って行く新羅の姿を見てから、静雄はポケットから白い紙を取り出した。


「……よし、行くか」


 その店は偶然見つけたものだった。
 静雄はセルティと似たような悩みを抱えていた。恋人としてのとは初めてクリスマスを迎える事になる。いつものように過ごすわけにはいかないと思いつつも、恋人同士のクリスマスはどういうものなのかまったくわからなかった。だが、このまま悩んでいてはクリスマス当日がやってきてしまう。とりあえず、予定が決まるまではクリスマス・イヴとクリスマスは空けておいてもらおうと思っていたところに、から誘いがあった。
 助かったと思うと同時に、情けなさが込み上げて来たのは言うまでもない。正直に話し、謝ると、は恥ずかしそうに笑った。


『来年は、二人で過ごそうね』


 その言葉を聞いて、静雄は今年渡すクリスマスプレゼントを思いついた。


「多分、これが俺の出来る事だよな」


 目的の店の前に着き、静雄は中へと入った。に渡すプレゼントを思いついてすぐに店を探し、この店に辿り着いた。


「いらっしゃいませ!」

「予約してた物、届いてますか」

「えぇ、届いてますよ」


 紙を手渡すと、店員は奥から小さな箱を持ってきた。中身はこれで良いか静雄に確かめてもらおうと箱を開く。確かに静雄が望んだものがそこにはあった。


「彼女さん、喜んでくれるといいですね」

「そう、ですね」


 店員から受け取り、小さな箱をポケットに入れた。あとはに渡すタイミングだけだ。
 どうやって渡そうかと考えながら静雄が店を出ると、外には新羅がいた。目を丸くして驚いていると、新羅は両手を合わせて謝った。


「ごめん、気になって!」

「……おい、新羅」

「わかってるよ、ちゃんには言わない」


 お互い喜んでもらえるといいね、と新羅は静雄の肩を叩いた。そんな新羅の手には長細い箱。新羅曰く『セルティに映えるのはシンプルなもの』との事。今回はシンプルなシルバーネックレスをプレゼントするらしい。セルティの白い首に映えるだろうと考えた結果だ。
 プレゼントは用意した。二人はセルティとが待っているマンションへと向かった。




「――おかえりなさい!」

『おかえり!』


 二人が帰宅すると、玄関までセルティとが出迎えに来ていた。


「早く早く!」

『新羅、今日は美味しい料理が作れたぞ!』


 背中を押され、二人はリビングへと向かう。テーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。


『さ、早く食べて! 感想が聞きたい!』

「そうだね、早く食べてほしいね!」

「じゃあお言葉に甘えて……静雄?」

「あ、あぁ」


 ――とりあえず、どうやって渡すかは後で考えるか。


 そればかり考えていると何も出来ないと判断したからだ。実際、どうやって渡すかを考えていたため、新羅に小突かれるまでまったく気付かなかった。
 席に着き、料理を口に運ぶ。普段からの手料理は食べているが、今日が特別な日だからだろうか。いつも以上に美味しく感じた。


「ん、うまい」

「本当!? 良かった!」

「うんうん! 美味しいよ! 美味しすぎるよセルティ!」

『そ、そうか!? 頑張って良かったよ!』

「あれ、

「ん?」


 静雄の目の前でケーキを食べているの頬に生クリームがついている。小さな笑みを零し、静雄は自身の頬を指差した。


「ここ、クリームついてんぞ」

「え、ど、どこ!?」

「ここだ、ここ」

「取れた?」

「まだ付いてる」

「えぇ!? どこ!?」


 中々取れない生クリームに焦る。静雄は少しだけ身体を乗り出し、向かい側に座って未だ頬についた生クリームと格闘しているに触れた。そして、頬についている生クリームを指で掬い、何の迷いもなく生クリームを掬った指を舐めた。
 取れて良かったと満足して座る静雄に、は今何が起こったのか理解出来ないと言う顔で見つめている。


「ほら、取れたぞ。ったく、クリーム取れねぇぐらいで慌てすぎだって」


 そう言って笑ったが、目の前に座るは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと動かしていた。その反応がよくわからない静雄は、訝しな表情を浮かべる。


「何だよ?」

「……セルティ! 僕も! 僕もここにクリームをつけたから取って!」

『自分でつけたのなら自分で取れ』


 新羅とセルティのやりとりを見て、少しだけ考える。何故は顔が真っ赤なのかと。


「……あ」


 徐々に静雄の顔も赤くなっていく。
 が頬についた生クリームを気にしていたから、取ってあげようとの親切心で静雄は動いただけなのだ。今思い返せば、かなり恥ずかしい行動を取っていたと静雄は髪の毛をかき上げるように額に手を当てた。


「わ、わりぃ」

「う、ううん! あ、ありがとう!」

「お……おう」

『何だろう、とても甘酸っぱい感じがする』

「わかるよセルティ。君が言おうとしてる事は僕にはとてもよくわかる」


 そんな二人を置いといて、新羅とセルティはプレゼント交換を始めた。


「わぁセルティ! これは……何?」

『す、すまない新羅。頑張ったんだ。頑張ったんだ私は……!』


 セルティが渡したのは手編みマフラーになる予定だったもの。編んでいく内に何故か正方形になり、買い過ぎた毛糸を使いきろうとしてしまった為、かなり大きい。


「ありがとうセルティ。これはセルティが僕の為に編んでくれたものだからね。大切にするよ。そうだ、ひざかけとして使うよ!」

『新羅……! 新羅もありがとう! このネックレス、大事にするよ!』


 も静雄に渡そうと鞄の中を探るが、ぴたりと動きを止めた。


「あ、そうだ。私は帰りでいいかな」

「帰り?」

「うん、帰り。使ってくれてるところ、見たいんだ」

「じゃあ俺も帰りに渡すよ」


 使ってくれているところが見たいと言うが用意してくれたプレゼントは一体何なのか。そして、は自分が用意したものは喜んでくれるのだろうか。期待と不安が混じりながら、とうとう自宅に帰る時が来た。


『今日は本当にありがとう!』

「ううん、こちらこそありがとう! 楽しかったよ!」

「静雄、僕からは『頑張れ』と言う一言を贈らせてもらうよ」

「まぁ有り難く受け取っておいてやるよ」


 新羅とセルティに見送られ、静雄とは部屋を出た。
 暖かい部屋から寒い外に出た為、ぶるりと身体が震える。少し歩いて新羅とセルティのマンションから離れた後、は鞄から静雄に渡すプレゼントを取り出した。


「この寒さなら大活躍してくれるかも……」


 鞄から取り出した袋の中から出てきたのは手編みマフラー。


「期末テストとかで編めなくて急いで編んだの。だからちょっとおかしいところあるかも……」

「いや、嬉しいよ。ありがとな、


 本当に嬉しかった。受け取ろうとすると、がマフラーをぎゅっと握りしめた。


?」

「……私が、巻いてもいい?」

「え、それ俺にくれるやつだろ?」

「そう言う意味じゃなくて! 静雄さんに巻くの、私がやってもいいかって事!」

「……じゃあ、お願いします」


 が巻きやすそうに少しだけ屈む。それでもにとっては高い。背伸びをして、ゆっくりと静雄の首に自分が編んだマフラーを巻きつける。


「ど、どうかな」

「確かに、この寒さだと大活躍するな」

「本当?」

「本当。……ありがとう、


 嬉しそうにはにかみながらお礼を言う静雄。顔に熱が集中しているような気がして、マフラーで口元を隠した。


「あー、じゃあ次は俺か」


 ポケットから小さな箱を取り出す。


「目、瞑れ」

「え? う、うん」

「俺が良いって言うまで開けんなよ」

「うん」


 ――右手が良いのか? それとも左手か?


 悩んだ末に、静雄はの左手を掴んだ。そして――。


「よし、いいぞ」


 静雄に言われ、は目を開ける。急いで左手を見ると、薬指には綺麗なピンクゴールドの指輪がはめられていた。


「これ……」

「その、何だ。……俺の、彼女だって言う、証みたいなもんだ。あと……」

「あと?」

「約束。来年も、その次の年も、ずっとずっと、二人で一緒にいような」

「……っ、うん!」


 この日の為に、静雄はに知られないようにいろいろと頑張ってきた。
 まずは指のサイズ。の指のサイズを知っておかないと指輪は買えない。なので、が眠っているときに起こさないように細心の注意を払って測った。
 そして、デザイン。の好みを知るために、何気なく質問をしてみたりして探っていた。
 だが、デザインだけはどうしても知ることが出来なかった。


「どんなデザインが良いかまではわからなくてよ。俺が気に入ったデザインを選んだけど、それで良かったか?」

「静雄さんが私の為に選んでくれたんだから、文句なんてあるはずないよ! ありがとう、本当に嬉しい! ずっとずっとつけてるね!」


 指輪をはめている左手を胸元で抱き締めたとき、雪が降って来た。二人で空を見上げる。


「……雪か」

「そうだね」

「おい、今度は顔に雪がついてんぞ」

「え!?」


 の顔についた雪は体温ですぐに溶けて水滴となる。静雄はその水滴を指で拭い、そのままの頬に触れた。


「……メリークリスマス、

「メリークリスマス、静雄さん」


 触れた唇は少し冷たかったが、恋人として過ごす初めてのクリスマスはとても幸せだった。






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