ただ、今日は天気が良かった。それだけだった。


「それだけで、お前は屋根の上に登って昼寝をするのか」

「仙蔵には迷惑かけてないよ」

「確かに私には迷惑はかかっていない。だが、何故屋根の上なんだ。他にも昼寝が出来る場所があるだろう」

「天気が」

「…もういい」


 何度このやりとりを続ければ会話がかみ合うのだろう、仙蔵はため息をついた。
 廊下を歩いているときに屋根の上で寝転がっているを見つけた。屋根の上など滅多に上がらない。何かあったのだろうかと急いで駆け付けて見ればこの有様。ただは昼寝をしていただけだったのだ。
 そう、仙蔵は心配したのだ。に何かあったのではないかと。しかし、相手にそれが伝わらない。仙蔵も直接言えば済む話なのだが。


「…仙蔵は、寝ないの?」

「あぁ」

「気持ち良いよ」

「…お前は、何故私がここに居るのかわかっているのか」

「昼寝をしに来たんでしょう?」




 ――違うと言えば何度気が済むんだ!




 仙蔵の眉間に皺が寄る。心配している仙蔵を余所に、再び寝る体勢に入る。本当に仙蔵がここに居る意味をわかっていないらしい。
 いつものことと言えばいつものことだ。はどこか不思議でついていける人間が少ない。というよりも、自身が一人で行動することを好むのだ。放っておけば良いことも仙蔵は解っている。だが、放っておけないのだ。寧ろ、誰かが見ていたほうが良いのではないかと思う。それほど見ていて危なっかしいのだ。
 そして、その役目を自分が担うことになった。仙蔵自身も、何故そうなったかわかっていない。しかし、自然とそうなったことに不満は無かった。


「…仙蔵は、寝ないの?」

「その台詞、今日で四回目だ」

「数えてたんだ」

「…ここよりも日当たりが良い場所がある。お前さえ良ければ連れて行ってやろう」

「本当?」

「あぁ、ただし、一つだけ条件がある」


 条件? と首を傾げるを尻目に、仙蔵はその場に立ち上がった。日当たりも良い、景色も良い。確かにこの場所は昼寝をするにはもってこいの場所だ。でも、ここは危ない。そう、危ないのだ。


「これから昼寝をするのなら、今から行く場所にしろ。わかったな?」

「どうして?」

「危ないからだ」

「どこが?」

「…ここは、人が通らないだろう」




 この場所だと、お前が誤って落ちてしまった場合、誰も気付いてくれない。




「仙蔵は、私のこと心配してくれてるの?」

「ようやく気付いたか、馬鹿」


 照れくさそうに威張る仙蔵は、未だ寝転がっているに手を伸ばした。逆光のため、からは仙蔵の表情がよく見えないが、笑っていることは何となくわかった。
 いつもの不敵な笑みではなく、とても優しい笑みで。


「ほら、何をしている。行くぞ」

「…うん」


 仙蔵の手の上に自分の手を乗せ、起こしてもらう。握った手はそのままで、二人はこれからの昼寝場所までゆっくりと歩いて行った。





おまけ


「先に歩かないの?」

「何故だ」

「だって、私と同じ歩幅で歩いてるから」

「…そうだな、そうだよな。お前はそういう女だったな」

「あ!そっか…仙蔵は私に合わせて歩いてくれてるんだね」

「いちいち口に出すな!」


 どうして会話がいつもかみ合わないのだろう、と仙蔵は今日で何回目かわからないため息をついた。









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