「よし、今からナンパに行こう」

「あ、これ可愛いね」

「杏里ちゃんに買ってあげれば?」

「え、あ、あの…」

「華麗なスルーに俺は泣きそうです」


 いつもの帰り道。いつもの会話。
 帝人の隣には杏里が居て、正臣の隣にはが居た。四人で帰るときは自然とこのような形になっていた。


「というわけで、俺を慰めてくれ…!」

「いたたたた!」

「紀田君はスキンシップが激しすぎだよ」


 の肩に腕を回し、正臣は身体を密着させる。が嫌がる様子は見受けられないため、正臣に軽く注意するだけで、帝人自身もそんな二人を見て笑みを零していた。
 正臣とはクラスが異なるが、四人は本当に仲が良かった。その中でも、正臣とは特に仲が良かった。気が合う、と言う言葉が似合う二人。そんな二人のように、杏里と仲良くなりたいと帝人は密かに思っていた。


「しっかしあれだなー、の頭は絶妙な位置にあるなぁ」

「ん?意味がよく…っていたたたた!頭でぐりぐりしないで!」

「紀田君、その…ちゃんが涙目ですけど…」

「あぁ、杏里。は痛がっているように見せかけて実は悦んでいるんだ!今こそ話そう…の真実を!が真正の」

「はいはい、余計なことを園原さんに吹き込まない」


 ちぇー、と正臣は自身の頭をの頭から離す。正臣の頭が当てられていたところは未だひりひりと痛みを催すが、それでも嫌な気分ではなかった。このような友人達と過ごす楽しい日常が、今までには無かったからだ。
 これからどうするかと四人で考えながら歩いているとき、肩を組んで歩いていた正臣との間をある人物が割って入った。
 正臣とはその人物を見て、目を見開いて驚いた。それと同時に、正臣は嫌悪感を露わにする。


「やぁ、楽しそうだね」


 正臣との間に割って入った人物は、折原臨也。眉目秀麗、この言葉が似合うその男は、爽やかな笑みを口元に浮かべていた。
 しかし、目は笑っていなかった。鋭い眼光を正臣に向け、今度は臨也がの肩に腕を回した。
 突然肩に回される腕に驚き、身体を固くするが、それでも臨也はお構いなしにを自分の方に引っ張る。


「仲良いんだねぇ、正臣君とちゃんは」

「おかげさまで。…それで、臨也さんはどうしてここに?」

「さて、どうしてでしょう」


 おどけた口調で質問を質問で返す。その態度に、正臣は苛つきが隠せなかった。正臣の様子に臨也は笑みを深くする。――正臣を嘲るように。


は、これから俺達と出かけるんですよ。な、帝人」

「え!?えーっと、そうですね。今どこに行くか話していたところで」

「それは残念だなぁ。ちゃんは今から俺と出かけるんだよ」

「そんな話聞いてませんよ?」

「今俺が決めたからね、当然だよ」


 ――何を言っているんだこの人は。


 この場に居た四人はそう思った。まるで、世界の中心は自分で、自分中心に世界が動いているとでも言いたげなその台詞。
 もちろん、は臨也の誘いを断った。帝人達と居たいと思ったからだ。
 だが、それを許す臨也では無い。臨也が決めたことは絶対なのだから。


「じゃあ、無理にでも連れて行こうかな」

「何言って――」


 声は人混みに紛れて聞こえない。それでも、近くに居た帝人、正臣、杏里にはしっかりと聞こえていた。
 ――の小さな悲鳴が。
 地面に崩れ落ちようとするの身体を臨也が支える。


ちゃん…!」

さん!?」

「あ、あんた…!何したかわかって」

「あぁ、わかっているさ。今、俺は、ちゃんに、これを、首筋に当てて、通電させた」


 これ――スタンガンを臨也は帝人達に見せびらかす。そして、スイッチを押す。バリバリと音を立て、放電するスタンガン。


「威力は抑えてあるけど、まぁしばらくは目が覚めないかな」


 ――ってことで、ちゃんは連れて行くから。


 臨也はを抱えて人混みの中に消える。その場に残された三人は、言葉を発することは無かった。




 ――カタカタと何かを叩く音がする。


 は薄らと目を開けた。ぼやけてよくわからないが、それでも視界に入ってきた天井は見知ったものでは無かった。
 意識がはっきりしていくにつれて、首筋にひんやりとしたものが触れていることに気付く。そこに手をやった瞬間、今自分がどのような状況に置かれているかを理解した。


「目が覚めた?」


 その声に驚き、は慌てて上半身を起こす。どうやらが眠っていた場所はソファーの上のようだ。が上半身を起こしたのに合わせて、ぎしりと音を立てた。


「臨也、さん…」

「結構強いものを当てたつもりだったんだけど、案外すぐに目が覚めたね」


 カタカタと言う音は、臨也が叩いていたキーボードから出ていたものだった。
 かけていた眼鏡を外し、臨也はが居るソファーまで近寄った。


「ま、これを付ける時間は確保出来たからいいか」


 の前に立ち、少し屈んで首筋にあるもの――銀色の首輪に触れる。


「鎖は俺の趣味じゃないからつけてないんだ」

「首輪は臨也さんの趣味だからつけたってことですか」

「嫌だなぁ、俺はSMの世界なんて興味無いんだ」

「じゃあ、これは…!?何のために!?」


 臨也は首輪との首の間に指を入れ、自分の方に引いた。幸い、付けられている首輪は頭から抜くことは出来ない大きさではあるが、それでも首輪との首筋の間は結構あいていたため、首が締まるということは無かった。


「逃げるっていう選択肢を奪うためだよ」

「…え?」

「この部屋の出入り口はあの扉だ。でもさ、よく見てみなよ。赤外線センサーがついてる。何のためについているかわかる?」

「私を、この部屋から出さない、ため…?」

「正解!この首輪には赤外線を出す処理が施されているんだ。だから、あの扉に近づくとセンサーがその光を受光して、扉の鍵が自動的に閉まるようになっている」


 正直、ここまでする必要があるのだろうかと思った。だが、手や足には拘束するものがついていない。


「手や足に何もつけなかったのは、この部屋を自由に使ってもらうためだよ」


 の疑問に答えるかのように臨也は話した。しかし、あともう一つの疑問が残っている。肝心なのは、この疑問だ。


「…どうして、こんなことするんですか」

「気に食わないからだよ」

「私が?」

「君に触れる奴らがさ」


 優しそうな笑みを浮かべ、の首輪から手を離した。ずっと上げられていた首が解放され、少し楽になったと思ったが、それだけで終わらなかった。
 臨也は座っているの足の間に片膝を入れ、背もたれにを押し付ける。


「そう言えばさっき、正臣君が君に肩を回したり頭くっつけたりしていたねぇ。昨日はシズちゃんが。その前はセルティが。
 俺さ、いつも思ってたんだよねぇ。…誰に許しを得て触ってるのかなぁってさ。ねぇ、ちゃんもそう思わない?」


 臨也が笑うように目を細めた瞬間、の首を片手で絞めた。
 苦しみに表情を歪めるを見ながら、臨也は言葉を続けた。


「こうやってちゃんに、に触れていいのは俺だけ。俺だけなんだよ」

「く、るし…!」

「そうだ、知ってる?」


 ――首を絞めると、ここも締まるらしいよ?


 そう言って臨也はの下腹部付近に触れる。
 ――怖い、苦しい、気持ち悪い。
 の中にある感情が、涙腺を刺激し、涙を流させた。そこで漸く臨也の手が首から離れ、苦しみからは解放された。


「一度試してみるのも有りか。ね、

「…っ!く、狂ってる…!」

「ははっ、知ってる」


 そう言って笑う臨也は、妖しく、それでいて美しい笑みを浮かべてを抱きしめた。







ルカ様へ捧げます!
『病んでる臨也さん』というわけで、とことん病んでもらいました。
…すみません、ネタ的にR-15な雰囲気。SMに興味無いとか言って、その世界に片足突っ込んでますね…。
ヤンデレにサドとアダルティを少々足した話になってしまいましたが、よろしければお持ち帰りください。
相互リンク、ありがとうございました!






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