――日付が6月18日から6月19日に変わる。その瞬間を狙ったかのように、帝人は携帯電話の送信ボタンを押した。


「……これでよしっと」


 いつものチャットも早めに終わることにする。退室する旨を伝え、帝人はパソコンの電源を切った。いつものように後ろに寝転ぼうとするが、途中で今日は出来ないことに気付いて何とか体勢を元に戻す。
 後ろには、普段飾らない机にテーブルクロスが敷いてある。壁には折り紙で作った輪を繋げたものを貼り、風船もつけた。


「喜んでもらえるかな」


 6月19日。この日のために、帝人は杏里とを家に呼んで会場のセッティングを手伝ってもらったのだ。


「さ、早く寝ないと!」


 物と物の隙間に布団を敷き、電気を消す。
 計画通りに行くことを想像しながら、帝人は眠りについた。




 ――少しだけ時間を遡る。
 日付が変わったのと同時に、正臣の携帯が震えた。相手は竜ヶ峰帝人。


『お誕生日おめでとう! 渡したいものがあるから、明日家に来てもらってもいい? ちょっと大きいものなんだ』

「おいおい、俺の誕生日なのに俺が取りに行くのかよ! ……まぁいいけどさー」


 正臣は『仕方がないから行ってやんよ』と打って返事を返した。携帯を閉じ、ベッドにうつ伏せで寝転ぶ。直後、正臣の中に嬉しいと言う感情が溢れ、笑いが込み上げてきた。深夜のため、隣に声が漏れてはいけないと枕に顔を押し付けて笑う。ばたばたと足を動かし、息がしんどくなったところで顔を上げた。
 ごろりと寝返りをうって、天井を見る。


「くっそー、帝人の奴! もう俺の誕生日なんか忘れてるって思ってたのによー!」


 ――さすが、俺の親友。


 早くから帝人のアパートに行こうと考えた正臣は、急いでシャワーを浴びて寝ることにした。




 ――6月19日。朝。
 梅雨の時期なのだが、今日は晴れ。カーテンを開けると差し込む太陽の光に、帝人は笑みを零した。布団を片付け、机を真ん中に移動させていると、トントンと扉をノックする音が聴こえた。
 今は朝の9時。時間通りだと帝人は急いで扉を開けた。


「おはよう、園原さん、さん」


 扉を開けると、そこに立っていたのは杏里と。今日の主役である正臣を祝うためだ。


「おはようございます、竜ヶ峰君」

「おはよう、竜ヶ峰君」

「手伝ってもらってごめんね。あ、正臣はまだ来ないみたいだから」


 二人を中に入れ、一緒にセッティングを開始する。もうすぐ来るであろう正臣の喜ぶ顔が見たくて、三人は一生懸命飾り付けをした。


「じゃあ、もう一回確認しよう」

「そうだね……。皆、クラッカーは持った?」

「も、持ちました。えっと、鳴らすのは、紀田君が入って来てすぐですよね」

「そうそう、正臣が入って来て『お誕生日おめでとう!』って言ってからパーンって」

「わ、私、鳴るかな……。一回、失敗して糸が切れたことが……」

「私はクラッカー自体初めてで……」

「だ、大丈夫だよ! 勢いよく引っ張れば鳴るから!」


 それに、クラッカーいっぱいあるから、と帝人は東急ハンズの紙袋いっぱいに入ったクラッカーを見る。
 昨日、帝人のアパートに来てもらう前に杏里とには買い出しを頼んでいた。事前に必要なものをリストにして渡していたのだが、個数を書き忘れ、杏里とはクラッカーと書かれたものを一種類ずつ全て買ってきていた。
 帝人に『多いね』とつっこまれて初めて量の多さに気付いた二人は落ち込んだが、これはこれで正臣が喜ぶかもしれないと敢えて見えるところにクラッカーを入れた紙袋を置いた。


「あとは、今日の主役の正臣君が来るのを待つだけだね」

「そうですね。楽しみです」


 にこりと微笑む二人に、帝人も笑みを零す。
 そのとき、誰かが階段を上ってくる音が聴こえてきた。途端、三人は息を潜める。


「……もしかして」

「紀田君……」

「……よ、よし。僕が開けるから、二人は準備しててね」


 帝人の言葉に二人は頷き、クラッカーを手にする。


「おーい、みっかどー。今日誕生日の紀田正臣様が来てやったぞー」


 ――来た!


「あ、う、うん! 今開けるよ、ちょっと待ってね」


 三人は目で合図を送り合い、部屋の中には緊張が漂う。ドアノブを回す音が妙に響き、杏里とは少しずつ開かれていく扉に息を呑んだ。
 外からの光が入り、徐々に開かれていく扉の隙間から正臣の姿が見えてくる。


「ったくー、俺の誕生日に俺をこき使いやがって。今日何か奢れ」

「ま、正臣」

「ん?」

「お、お誕生日おめでとう!」


 帝人の後ろからパンッと盛大な音が二つ響く。そして姿を現したのは、クラッカーを手にした杏里と


「おめでとう、正臣君!」

「おめでとうございます、紀田君」

「杏里と、……。え、これ、どうなってんの?」

「つまり、こういうことだよ。ほら、入って入って」


 後ろに回った帝人に背中を押され、正臣は部屋の中に入って行く。
 飾られた壁、机。机の上には、ホールのケーキが置かれていた。唖然としていると、再びクラッカーの音が響く。


「ハッピーバースデイ、正臣!」

「ね、歌おうよ!」

「お誕生日の歌、ですよね」


 三人は正臣のために手拍子をつけて歌い始めた。まるで幼稚園のお遊戯会みたいだと思いつつも、正臣は嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
 後ろを振り向き、手をいっぱいいっぱいまで伸ばして三人を抱き締める。


「やべぇ、マジで嬉しいんだけど! 何かサプライズとかあったら嬉しいなーとか思ってたら本当にサプライズあったし、何っつーか……うん、マジで嬉しい」


 身体を離した正臣の目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。


「……ほら、正臣座って。主役が座らないと、始まらないでしょ」

「よくわかってんじゃん帝人! よし、今日は食いまくるぞ!」

「あ、でもその前のロウソク吹き消したりしないの?」

「えっと……何本立てればいいのでしょうか。歳の数だけ立てると、ケーキが穴だらけに……」

「それは困るね。せっかく園原さんとさんが作ってくれたのに」

「おいおい、ちょっと待て。このケーキ、杏里とが作ったの?」

「う、うん。美香ちゃん……張間さんがお料理上手らしくて、教えてもらったんだ」


 わなわなと身体を震わせた後、正臣は杏里とに抱きついた。市販のケーキかと思っていたのが、実は杏里との手作りだった――。正臣が喜ばないはずが無い。


「俺のために作ってくれたのかよー! よし、ロウソクは5本立てようぜ! これで穴だらけにはならねぇだろ?」

「じゃあ5本立てて、火を点けようか」

「カーテン閉めるね」


 厚手のカーテンを閉める。今は朝なのでそれでも少々明るいが、ロウソクに火が灯れば四人の気分は高まった。
 正臣はしばらくロウソクを見つめていた。達も正臣を見守る。


「……本当、ありがとな」


 照れくさそうに笑みを浮かべ、正臣は5本のロウソクに灯っている火を吹き消した。その瞬間、パチパチと三人は手を叩いて祝福した。


「ずっと友達だよ、正臣」

「これからも、よろしくお願いしますね」

「生まれて来てくれて、ありがとう」




 Happy Birthday Dear Masaomi!








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