それは、倉庫を整理しているときに起きた。
「食満!大丈夫!?」
「あ、あぁ。何とか…。それよりもお前は」
大丈夫なのか、と続けるつもりだった。が、自分の下に居るを見て言葉を失った。いや、正確に言うと、自分の下に居るとの距離の近さで言葉を失った。
かく言うは距離よりも食満を気にしていた。何せ、食満の上にはたくさんの道具が降ってきたのだ。本来ならばがそのたくさんの道具の雨を受けるはずだったのだが、それを食満が庇い、痛みすらも引き受けてくれた。食満が顔を少し赤らめている間も、は食満を気にして目で確認出来る怪我は無いかどうか調べていた。
「痛いところは?急いで保健室に行かないと…!」
「大丈夫だ。そんな軟な鍛え方はしてない。それよりも、お前は。怪我はないか」
「ないよ、だって、食満が護ってくれた」
嬉しそうに微笑むを見て、食満は視線を横にずらした。照れているのだろう、横にずらした視線をあちこちに彷徨わせている。そんな様子を見て、食満らしいと言えば食満らしい。そう思ったは小さな笑い声をたてた。
学園内で食満は文次郎と一、二を争う強さだ。学園で一番忍者をしていると言われている文次郎と張り合うぐらいだ。確かに軟な鍛え方はしていないだろうとは思ったが、は上から降ってきた物に目をやる。軽い物から重い物まで様々な物が降って来ていた。
「…とりあえず、善法寺くんのところに行こう」
「大丈夫だって言ってるだろう」
「重たい物だって落ちて当たってるんだよ?もしかしたら打撲とかしてるかもしれないじゃん!
打撲をなめたらいけないってこの前善法寺くんに言われたばっかなのに、もう忘れちゃったの?」
「そういえばそんなことも言われたな。…だが、このままで保健室には行けんだろ。あいつらも今日はいるしな。いつここに入ってくるかわからん」
「だったら、今から私が善法寺くんのところに行って湿布もらってくるから、絶対にここから動かないでね!」
食満の下からもぞもぞと動いて抜け出し、背中の上に乗っている物を降ろして、伊作がいるであろう保健室へ走って行った。
自分の背中の上に乗っていた物が降り、も下からいなくなった。四つん這い状態から普通に床に腰を下ろす状態に姿勢を変えたのだが、背中が痛い。壁に凭れかかろうにも背中が痛くて凭れることが出来ない。かと言って背中を曲げようとしても背中が痛む。
いろんな姿勢を試し、結果落ち着いたのは微妙な角度で背中を前に傾ける姿勢だった。
「…の言うとおりだな、打撲とかしてるような気がする」
――護ったつもりだったが、逆に心配かけちまって、俺って一体何がしたいんだ!
ちょっと格好ぐらいつけたかった、と悲壮感に浸っているとき、が湿布と包帯を手に戻ってきた。手には何故か一枚の紙を持っている。
「食満!善法寺くんから湿布と包帯もらってきたよ!」
「あ、あぁ。すまない。…でも、その紙は?」
「私の友達が保健委員してて、ちょうど善法寺くんと一緒に居てさ。善法寺くんが用意してくれてる間に、包帯の巻き方とかを紙にまとめてくれたんだ!」
ほら! と嬉しそうに紙を食満の前で広げる。それを見ると、綺麗な字で細かく治療法が書かれていた。
「善法寺くんがね、『留三郎はいつも無茶ばかりだね…』って笑ってたよ」
「あいつ…!」
「で、私の友達はね、『でも、最近は食満くんだから仕方ないかなって思うようになったかな』って言ってた」
「…あいつらは俺のことを何だと思ってるんだ!」
「あははははは!まぁまぁ落ち着いてよ、半分本当のことなんだし。
ほら、背中見せて?その体勢で居たってことは、結構痛かったんでしょ?」
――あいつらもムカつくが、こいつもムカつくな…!ただ背中を見せるだけじゃ面白くないな…。…よし、やってみるか。
こいつの反応を見るのも悪くない、と食満は上の服を脱いだ。脱いでから背中を向け、治療よろしく、とに言う。
――ふふん、これでどうだ!ちょっとは見惚れたか!…って、あれ?
「何上半身全部脱いでるの?背中だけ見るつもりだったんだけど」
「…お前!何も思わないのかよ!」
「何で食満の裸見て何か思わなくちゃいけないの!」
「くっそー!!」
ちょっと見惚れるんじゃないか、と期待して上半身を曝したのだが、何の反応もなく、寧ろ何も思わないと言われ、少し傷ついた食満。
「顔を赤らめるとか、することあるだろが!」
「そういうの自分で言うから更に嫌!」
「『ないよ、だって、食満が護ってくれた』…って言ったときは、素直に可愛いって思ったのに、結局これかよ…!」
「私も“食満かっこいいなぁ”って思ったのに…。脱いだりしなかったら、今日のこと良い思い出で残ったのに」
「このことも良い思い出にしろ」
「出来ない」
治療している間も、二人は今日のことについて議論していたが、そんなことはどうでもよかった。素直になることが出来ない二人だからこそなのだが、結局はこうして二人で話している時間が大切で、二人で居る時間が大切なのだ。
それに気付いているかどうかは定かではないが、二人は至極楽しそうに結論の出ない議論を続けた。
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