※長編・短編の夢主です。来良学園を卒業して、短大に通っています。
「ケスラーシンドローム」
「無重量用軸受け」
「ケレス」
「スピン抜け」
渡草の運転するバンの中で、狩沢と遊馬崎がしりとりをしている。このしりとりは数日前から始まったもので、アニメやそう言ったものからの影響をもの凄く受けやすい二人だからこそなのだろう。もう何十回と同じ言葉を門田は聞き続けていた。
「おい、お前ら」
「契機飛行」
「ウィンドウ開け」
「おい、無視すんな」
「ケネディ宇宙センター」
――いつまで続ける気だこいつら…。
走っているバンから見える景色を眺め、ため息をついた。
「鍵盤ハーモニカ」
「髪の毛」
「結婚しよう!」
「うん!」
――やっと終わったか。
このしりとりの場面があるアニメ自体は見たことは無いのだが、何度も何度も二人のしりとりを聴いているうちに門田自身も覚えてしまった。
初めて聴いたときは驚いたが、個性があって面白いプロポーズだと思っている。渡草はどうでもいいと言っていたが、やはり門田も渡草も結婚適齢期だ。少しはそういうことに興味があっても不思議ではない。
――俺もいつかあいつに…。
そこで顔をふるふると横に振った。まだそんなことを考えなくても良いのではないかと思ったのだ。
「あれあれぇ?門田さん、何してるんすかぁ?」
「もしかしてぇ、ちゃんのこと考えてたとか?」
「なるほど『プラネテス』のしりとりを聴いてプロポーズ考え出したんすねぇ?」
「…うるせぇ」
門田の言葉に大はしゃぎする狩沢と遊馬崎。静かにしろと怒る渡草を無視し、二人は手を取り合って喜んでいる。
「だったら、ドタチンも『プラネテス』みたいにしりとりでプロポーズだよ」
「それしかないっすね!今度ちゃんに会ったらプロポーズっすよ!」
――だから、考えただけでするとは言ってねぇだろ。
二人はお互い門田とになりきってしりとりを始めた。の役を演じているのは狩沢なのだが、ちょっとした癖なども完璧に演じている。一方、遊馬崎もしっかりと門田の役を演じていて、こちらも完璧に演じている。隣で運転している渡草すらも「似ている」と言うほどだ。
門田のつくため息は段々深くなる。頭が痛くなると額を押さえ、ちらりと窓の外を見た。
「…あれ」
「あー!何と言う偶然!いや、運命と言うべきなんっすかねぇ!?」
「偶然じゃないよ、運命だよゆまっち!ってことで、早く車止めて!」
「お、おい!お前ら…!」
少し行ったところでバンを停車し、狩沢と遊馬崎は急いで出て行った。二人の後を追うようにして門田もバンから出るが――。
「おーい、ドタチン!ほらほら、ちゃん!」
そこには、狩沢に捕まった学校帰りのがいた。
「門田さん!……あれ、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「あー、いや、何でもないんだ。何でも」
――こいつら…!
嫌な予感がする――。冷や汗が流れるのがわかった。にやにやと楽しそうに笑みを浮かべる狩沢に、その後ろでスケッチブックを広げて何かを書いている遊馬崎。
どのようにしてこの場を切り抜けるか考えていたとき、遊馬崎がスケッチブックを掲げた。そこには危惧していた内容が書かれていた。
『男は度胸!ってことで、門田さん頑張ってください!』
もちろん、しりとりのことだ。そして、へのプロポーズ。途端に門田の顔が赤くなった。
「あははは!ドタチン、顔真っ赤だよ?」
「…お前らなぁ」
「ねぇねぇ、ちゃん。面白いしりとりがあるんだぁ。やってみない?」
「しりとりですか?」
「、狩沢の言うことなんか無視していいぞ。っつーか無視しろ」
「ドタチン、男でしょ?決めるときは決めたほうがいいと思うけどなぁ。それに、いつかは言うつもりだったんでしょ?私もゆまっちもわかってるんだからね」
ぐさりと心に突き刺さる。
門田自身、のことは真剣に愛している。結婚もいつかはしたいと思っている。しかし、はまだ20歳だ。やりたいことなどたくさんあるのではないかと考えると、身を固めることはのやりたいことなどを制限してしまうことになるのではないか――。結婚に踏み切れない理由はここにあった。
『年齢とか気にしてるなら、そんなのゴミ箱に捨てるっすよ!』
――こいつ、俺の心の中でも読んでんのか。
「じゃあ、始めるよー!ほら、ドタチン早く早く!」
「…け、ケスラーシンドローム」
「ちゃん、これね。これ」
「えーっと…無重量用軸受け」
――こいつらに流されて言っちまったけどよ、本当にこれでいいのか俺は。
とうとう始まったしりとり。少しずつあのプロポーズの言葉が近づくたびに緊張が増していく。
「あの、さっきから思ってたんですけど、何か変わったしりとりですよね?…ウィンドウ開け」
「気にしない気にしない」
「ほら、門田さんすよ!」
「…ケネディ宇宙センター」
「これ、木星の衛星じゃ……えっと、アナンケ」
――俺は、確かに結婚してぇって思ってるが、こいつは…はどうなんだ。
「…鍵盤ハーモニカ」
「髪の毛」
――おいおい、マジかよ。くそ…本気で俺に言わせる気なのかこいつら。確かに俺はいつかは言うつもりだったが、こんな形で言うことになるなんてなぁ…。
いや、でも良かったのかもしれねぇ。タイミングが掴めねぇとは思ってたんだ。…今が、本当にチャンスなのかもしれねぇな。
意を決して、門田は口を開いた。
「――結婚しよう」
いつの間にか狩沢と遊馬崎は二人から離れていた。柄にもなく緊張している自分自身に、門田は苦笑を浮かべた。
「あ、あの、どういう…」
「俺と結婚するのは嫌か?」
「そんなわけありませんよ!ただ…その、何て言うか…わからなくて」
「何がだ?」
「……返事の、返し方」
顔を真っ赤にして、申し訳なさそうに顔を俯ける。その様子に口元を綻ばせ、門田はの頭に手を置いた。
「言っておくけどな、まだしりとりの続きだぞ?お前の番なんだから、早く言え」
「しりとりの続き……」
そこでは顔を上げる。そして、力無いパンチを門田のへその部分に当てた。依然として顔は赤いが、少し悔しそうな表情を浮かべている。
「ずるいですよ門田さん。私の負けじゃないですか」
「怒るなよ。俺だって必死だったんだぜ」
続きは、と促すとは小さな声で答えた。
「――うん」
二人の様子を見守っていた狩沢と遊馬崎は飛び跳ねて喜んだ。
全て知っていたのかとは再び顔を真っ赤にしたが、照れくさそうに頭に手をやっている門田の胸に飛び込んだ。
「お前っ…!」
「だ、だって、恥ずかしいし、でも嬉しいし、表現がわからないんです…」
「だからって抱きつく…いや、いいか」
の肩が微かに上下に揺れている。小さく笑みを零し、門田はの頭を撫でた。
「絶対に、幸せになろうな」
何度も頷くを、強く強く抱きしめた――。
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