TOY様の『ラブ甘なキス5題』からお借りしました。
カタカタと途切れる事無く聞こえていたキーボードを叩く音が聞こえなくなった。どうしたのだろうかとは臨也を見ると、彼は少しだけ眼鏡をあげて両目を軽く押さえている。
大量の書類、ずっと見続けているパソコンのディスプレイ。疲労がかなり溜まっているのだろう。こういう光景を見ると、波江のように臨也の仕事を手伝えない自分自身に怒りが湧く。
――何か出来れば良いのに。……臨也さんの、彼女なのに。何も出来ないなんて。
またカタカタとキーボードを叩く音が響く。は彼の邪魔にならないようにそっと立ち上がり、コーヒーを淹れる。最初は『不味い』と言われたが、今では『美味しい』と言ってもらえるようにまでなった。
――唯一出来るのがコーヒーを淹れる事だけ。もっと役に立ちたいのに。
こぼさないようにと慎重に持っていき、カップを机の空いている所に置いた。臨也は真剣にディスプレイを見ているようで、に気付いているのかどうかすらわからない。軽く頭を下げてソファーに戻ろうとしたとき、後ろから手を握られた。
「どこ行くの?」
「え? あ、あの、臨也さんの邪魔にならないように……」
「いつ俺が君の事『邪魔』なんて言った?」
口角を上げ、首を少し傾ける臨也。
臨也はに対して『邪魔』だと一言も言った事が無い。一度口を開いたが、何も発さずに、は口を閉じた。ただ、が臨也の仕事の『邪魔』になると思っただけだから。
「ちゃんがいてくれて、俺は感謝してるんだけどね?」
「……本当、ですか?」
「嘘ついてどうするのさ。感謝してるよ。仕事で疲れた時は特にね」
「どういう意――――」
会話の途中で、は臨也に強く引っ張られた。
「いっ、臨也さっ……!?」
臨也の膝の上に乗る体勢になり、彼との距離は格段に近くなる。握られた手は、ゆっくりと指を絡められ、まるで離さないと言わんばかり。顔に熱が集中し、赤くなっているのがわかる。だが、間近にある臨也の目から視線を逸らす事が出来ない。
冷たい手で頬に触れられ、ぎゅっと目を瞑った。この流れだと、キスがくるのではないかと。そう思ったは身構えたのだが、何もない。しばらくして、くすくすと笑う臨也の声が聞こえて来る。ゆっくりと目を開けると、臨也は困ったような表情をして笑っていた。
「可愛いねぇ、本当」
「……からかってます?」
「からかってなんか無いよ。あぁ、そうだ。さっきの続きだけどね」
頬に触れていた手を離し、そっとの唇に触れる。
「疲れたときは、糖分を摂取すると良いって言うだろ? ……今日は、ちゃんからがいいな」
「――――っ!?」
「あー、疲れたなぁ。疲れた疲れた。誰か俺に良いモノくれないかなぁ……。ねぇ? ちゃん」
「……え、えっ、と……」
「ほら、早く」
目を瞑る臨也に、は空いている手を彼の肩に置き、ゆっくりと顔を近づける。
心臓の音は、彼に聞こえてはいないだろうか。今の自分の顔を、彼に見られてはいないだろうか。そんな不安を抱きながら、は唇を重ねた。
全て彼に知られている事を知らないまま。二人の口付けは、いつしか臨也が主導権を握り、深いものへと変わっていった。
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