※長編・短編の夢主です。来良学園を卒業して、短大に通っています。
いつもいつも抱き心地が良いと臨也は思っていた。
ちょうど良い位置に彼女の肩があり、そこに己の顎を乗せることが出来る。何よりも、ちょっとしたことで反応が返ってくる。それが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
「あの…」
「何?」
彼女――の髪を弄びながら返事をする臨也。
「あぁ、離れろって言うのは受け付けないからね」
「…何でもないです」
諦めたかのようにため息をつき、は課題を終わらせようとペンを走らせる。の様子に、臨也は至極満足していた。
何故なら、課題よりもの後ろにいる臨也自身に気を取られているからだ。
臨也がこのように課題をしているを後ろから抱きしめるようになったのは、が短大に通い始めてからだった。日々多くなる課題に時間をとられ、臨也がと過ごす時間が減ってしまった。
――せっかく俺のマンションに来てるのに、課題なんかが優先されるなんておかしいだろ?
くるくるとの髪を指に巻きつけ、離す。最初はこうして髪を弄んでいると「気が散るのでやめてください」と怒ったも、慣れてしまったのか。怒ることは無くなった。ただ、最近は「離れてほしい」と言うようになったが。
――離れる気なんてさらさら無いけどね。
の髪に口付ける。
「あ、あの、集中できないのでやめてもらえます、か…」
「やだ」
「さっきから課題進んでないの、臨也さんだってわかってるでしょ?」
「じゃあ課題なんてやめなよ」
「出来るわけないじゃないですか、単位とかもあるのに」
臨也の無茶な提案には苦笑いを浮かべた。本当にやめてしまえばいいのにと臨也はため息をつく。が課題さえやめてしまえば、この時間ですら臨也のものになるのだ。そう思っていると、課題に対しての苛立ちが臨也の中で生まれる。よくも自分のものを横取りしたなと。
「…邪魔だね、単位って」
――本当、俺の邪魔ばっかり。
からは見えない位置でむすっとした表情を浮かべる臨也。学校などやめさせたいが、行きたいと言っていた短大に推薦で受かったときのの喜びようを思い出すとそうもいかない。自分もつくづくには甘くなったとため息をついた。
「そういえば臨也さん。今日狩沢さんと遊馬崎さんに会ったんです」
「ふーん」
「最近少し前のアニメを見たらしくって、そのアニメの影響かな…ずっとしりとりしてました」
「…しりとり?」
昨夜のいつものチャットで、田中太郎と言うハンドルネームを使用した竜ヶ峰帝人もしりとりの話をしていたことを思い出す。
――って言うか、俺といるときに他の奴の話とかムカつくんだけど。
そう思いつつも、帝人から聞いたしりとりの話は、臨也にとって一風変わったもので非常に面白かった。アニメと言うものをあまり見ない臨也だが、このアニメだけは見てみようかと思ったぐらいだ。
「でも何のアニメの影響かわからなくて…」
「やってみようか、俺との二人で」
――本当には知らないんだ。…このしりとりの最後は、プロポーズなんだけど。
「え、良いんですか!?じゃあやりましょう!」
「いいよ、じゃあ俺からね」
臨也とはしりとりを始める。は課題をしつつのしりとり参加だったが、次第にしりとりに夢中になり、課題は途中で止まってしまった。それを見て、臨也は途端に嬉しくなった。今は臨也との時間なのだと。課題はそこで引っこんでいればいいと悪態をつきつつ、しりとりを続ける。
「プロトン溶媒」
「…さっきから難しい言葉ばかりですよ?」
「ありでしょ?ほら『い』だよ」
「い、いちご」
――池、って答えてくれると思ったんだけどなぁ。はいつも俺の予想とは違うことをしてくれるよ。
だから飽きないんだけどね、と笑みを零しつつ、臨也はにある一文字がついた言葉を言わせようと奮闘する。
「鍵盤ハーモニカ」
「鍵盤、で止まってたら勝ちだったのに…」
「そんな面白くもないミスを俺がするとでも?」
「お、思いません…。えーっと、髪の毛」
「結婚しよう」
「う……って、え?」
さらりと言われた言葉。は思わず後ろを振り向いて臨也を見た。臨也はにこにこと笑みを浮かべながらを見ているだけだ。
「何驚いてるの?」
「え、だ、だって…」
「結婚しよう――ほら、の番だよ」
「あ、え、えっと…」
には、臨也が本気なのか冗談なのかわからない。これはしりとりだ。しりとりでプロポーズなどあるのだろうか、その疑問だけがの中で存在し、臨也に続きを促されても中々答えることが出来ない。
いまだ目を丸くして驚いているに、臨也は真顔で話しかけた。
「しりとり、したかったんだろ?あの二人が言ってたしりとり」
でも、と臨也は言葉を続けた。口元には笑みを浮かべている。
「冗談じゃないよ?俺はいつでも本気」
――だから、このプロポーズも本気。
「泣いてないでさ、早く言ってよ。の番なんだから」
の瞳から流れる涙を拭ってやり、額を合わせた。いつまでも待つつもりだった。臨也は瞳を閉じ、がしりとりの続きを、そしてプロポーズの返事を言うのを待った。
しばらくして、は臨也の手に触れた。微かに震えているのは気のせいではないだろう。
「う、ん…」
その言葉に、臨也は瞼を開けた。嬉しそうに瞳を細め、口元を綻ばせた。
「――はははっ!の負けだね」
「そ、それでもいいですよ。後悔、してないです」
「これからも後悔なんてさせないよ。俺が、君をずっとずっと、死ぬまで幸せにしてあげるからさ」
早速明日にでも婚姻届貰いに行こうか、と言う臨也に、は慌てて止めた。せめて今行っている短大だけは卒業させてほしいと。
「別に働かなくてもいいんだし、やめちゃえば?」
「働かなくていいって…私、働きたいんですけど…」
「駄目。が働くってなると俺といる時間が無くなるだろ?駄目だよそんなの。絶対許さない」
「で、でも!そっ、それ以外は…その…臨也さんのものに…なるわけで…」
「――へぇ。嬉しいこと言ってくれるね」
臨也はに口付けを落とす。
「学校は卒業するまで行くのは許してあげるけど、…そうだね、俺の秘書やるんだったら働くのは許してあげる」
「波江さんがいるじゃないですか」
「波江とは別だよ。俺の、俺だけの秘書。ただ傍にいてくれればいいからさ」
「それ、仕事じゃないんじゃ…」
「仕事だよ?ちゃんとした仕事」
――俺の傍にいるっていう、仕事。
「嫌?」
「嫌じゃ…ないです、けど」
「じゃあいいよね」
本当に強引だと思いつつも、どこか嬉しいと思っている自分がいることに気付き、は照れながらも、幸せだと微笑んだ――。
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