――さて、どうしてくれようか。


 目の前で謝罪を続ける白衣を身に着けた男は、誠意を込めて謝罪をしているように見えて、内心とても面白がっているのが目に見えている。普段なら、そこでジャケットのポケットに忍ばせてあるナイフを取り出し、少し脅してやろうとも思えるのだが、今のこの状態ではそうもいかない。と言うよりも、この状態でナイフを上手く扱うことは不可能だと確信していた。
 それは何故か?答えは簡単だ――手が小さいからだ。
 では何故手が小さいのか?その答えも簡単だ――新羅のせいだ。
 そして、小さいのは手だけでは無い。何もかもが全体的に小さいのだ。


「…新羅、どう責任とってくれるのかなぁ」


 ――実年齢23歳、外見年齢4歳の折原臨也は、ソファーに腰をかけ、小さな足を一生懸命組んで新羅を睨んだ。


「でもさ、責任って、君も悪いでしょ?」

「肩とか出て結構寒いんだよねぇ。服欲しいなぁ」

「はいはい、人使い荒いんだから…」

「元の姿に戻ったら、真っ先に君のありとあらゆる情報を流してもいいんだけど?」

「冗談、冗談だってば!」


 新羅は急いで部屋を出た。エレベーターのボタンを押し、上がって来るのを待つ。その間、どのような服を買って着せようか悩んでいたのだが、新羅に子供はいないため、今の子供がどのような服を着るのかがわからない。


「もう白衣でいいんじゃ…あ、でもそんなことするとありもしない情報すら流されそうだよ…」


 上がってきたエレベーターに乗り、盛大なため息をつく。
 臨也が幼くなってしまった原因の薬を作ったのは新羅だが、新羅自身も作りたくて作ったわけではなかった。偶然出来上がった薬なのだ。そして、ちょうどそこに居合わせた臨也が面白半分で飲んでしまった。
 新羅が悪いのか、臨也が悪いのか。どちらも悪い気がする、と新羅は思った。


「…だからこそ、僕だけがこんな仕打ちを受けるのはおかしいよね。うん、おかしい」


 白衣から携帯を取り出し、ある人物に電話をかけた。待ち合わせの約束を取り付けてから電話を切った。


「些細なことかもしれないけど、今の臨也からすると絶対に屈辱的なことだと思うんだよね」


 我ながらナイスアイディア、と新羅はテンションを上げて待ち合わせ場所へと向かった。




 ――こ、子供服って…誰かにプレゼントするのかな?


 新羅がかけた電話の相手はだった。急いで準備をして待ち合わせ場所まで行く。男の子にあげるのか、女の子にあげるのか――と考えながら。


「新羅さん!」

「やぁ、ちゃん。急に呼び出してごめんね」

「いえ、暇してましたから。それで、どんな子にあげるんですか?」

「よくぞ聞いてくれました!」


 その台詞を待ってましたと言わんばかりにテンションが上がる新羅。はわかっていなかった。何故新羅がここまで嬉しそうにその子供の特徴を語るのかを。ただ、知り合いの子にあげるのが楽しみで仕方が無いのだと思っていた。


「よし、じゃあ買いに行こうか!今服が大き過ぎて逆に寒い思いをしてるからさ」

「大き過ぎて、ですか?」

「そうそう、大き過ぎて」


 意味がわからないは首を傾げるが、新羅はお構いなしに子供服売り場に入っていく。鼻歌を歌っている新羅の横で、も先程聞いた特徴を元に似合いそうな服を探していった。
 特徴を聞いては、少し生意気な男の子を想像していた。


 ――新羅さんが言うには、服を買ってこいってその子に言われたみたいだしね。見た目は大人しそうなんだけど、性格は年相応で少し生意気なところがあるんだろうなぁ。


 そう考えているとき、黒色のパーカーが目に入った。それを手に取り、そのパーカーの下に着れそうなものを探しに行く。出来るなら灰色のロングTシャツみたいなものが欲しいと思って探しているとき、ちょうどそれに似た感じのものが置いてあった。それを手に取り、パーカーと合わせてみる。


「うん、合うね!」


 は新羅のところへ戻り、声をかけた。振り向いた新羅が手に持っていたのは、子供用のジーンズ。そして何故かサスペンダー。


ちゃん、これってどうかな?その子に似合いそう?」

「ジーンズは合うと思いますけど…サスペンダーも買うんですか?」

「え、いらない?」

「子供用のジーンズはゴムが入ってますから、ずれる心配はしなくても大丈夫だと思いますよ」

「そっか…からかえると思ったんだけどね」

「え?」


 何でもないよ、と新羅はから服を受け取り、レジに向かった。服の代金を支払い、新羅は紙袋を持っての所へ戻ってきた。至極楽しそうな顔を浮かべている。
 新羅はにまだ時間があるかどうか確かめた。もちろん、家に呼ぶためだ。


「今日は何も無いですから、大丈夫ですよ」

「それはよかった!ちゃんにその子を紹介したいんだ!」

「わぁ、本当ですか!?行きます!」


 ――よし、準備は整った!臨也の驚く顔が楽しみだよ。


 新羅とはマンションへと向かう。会うのを楽しみにしているを見て、新羅はにこりと微笑んだ。
 マンションの前に着き、エレベーターのボタンを押す。すぐに下りてきたエレベーターに乗り、新羅の家に着いた。


「ただいま。言われた通り、服買ってきたよ」

「遅いよ、新…」


 文句を言おうと玄関まで来た臨也は、固まらざるおえなかった。誰にもこの姿を見せたくなかったと言う理由もあるが、新羅が連れてきた少女の存在に驚いた。


「あ、この子ですか?」

「そうそう!そうなんだよ、ちゃん!この子は、折原臨也って言うんだ!」

「……え?」

「ちなみに、同姓同名とかではないからね!正真正銘、あの情報屋の折原臨也だから」


 確かに、初めて見た瞬間似ているなとは思ったが、本人だとはどうしても思えない。が知っている限りでは、臨也は静雄と同い年の23歳の青年なのだ。
 だが、今の目の前にいる眉間に皺を寄せた子供を新羅は『折原臨也本人だ』と言う。どういうことなのかさっぱりだった。


「ほらほら、せっかくちゃんと僕が服を買ってきたんだから、さっさと着替えて」


 紙袋を押し付け、ひょいと抱き上げた。そのまま洗面台で下ろし、扉を閉める。ただ呆然とするに申し訳なさそうに声をかけた。


「ごめんね、ちゃん。騙すつもりはなかったんだけど」

「え!?あ、い、いえ…。あの…本当にあの男の子が臨也さん…?」

「そうだよ。実はね、僕が偶然作ってしまった薬を、臨也が面白半分で飲んだんだ。それで身体が縮んであんな姿になっちゃったってわけ」

「そうなんですか…」


 着替えが終わった臨也が出てきた。サイズもちょうど良いようで、年相応な格好になっていた。
 だが、臨也自身は膨らませているつもりはないのだろうが、ぷく、と頬を膨らませて怒っている――ようには見えた。


「か、可愛いですね…」

「中身は23歳だけど?あぁ、それでも今は外見が4歳児だからね。可愛いって言ってもらえて本望だよまったく」

「あの、臨也さん…。もしかして、拗ねてます?」

「そこの馬鹿のせいで機嫌が悪いのは確かだね」

「馬鹿って何!?」


 新羅が少し大きな声を出すと、臨也はとことこと歩いてに近づき、スカートの裾を握った。


「そんな大きな声出さないでくれる?俺、今小さいからちょっと怖く感じるんだけど」


 もちろん嘘だ。怖いわけがない。それでも、は今の容姿の臨也に騙されてしまう。しゃがみ込み、臨也の身体を抱きしめる。幼い子供独特の柔らかさが、の母性本能を少し刺激した。


「だ、駄目ですよ。中身は23歳の臨也さんですけど、こんな小さい子供を叱るのは可哀想です」

「その姿に騙されちゃ駄目だよちゃん!これは臨也の演技だから!」

「あのねぇ、この姿にもなって何で演技をしなくちゃいけないのさ」


 もちろん演技だ。新羅の声にびくりと震えたかのように見せ、首元に抱きついた。今の臨也にとっては、メリットだらけのこの姿。デメリットと言えば、から子供扱いされることぐらいだろう。


「あの今思ったんですけど…」

「ん?何だい、ちゃん」

「臨也さんは、いつ元の姿に戻れるんですか?」

「薬の効果が切れたとき、かな。分量を見る限りでは、明日の朝ぐらいまでは続くと思うよ」


 ――明日の朝。その言葉を聞いて、臨也はに抱きしめられながらにやりと微笑んだ。


「ねぇちゃん。明日の朝まで一緒にいてよ。この姿だといろいろ不便でさ」


 不安そうな表情を浮かべ、臨也はを見る。今の子供の姿の臨也にそのような表情で見られると、嫌とは言えない。新羅に許可を取り、静雄に『セルティの家に泊まるね』とだけ伝え、は今日泊まることにした。
 見事を騙した臨也は、今の膝の上に座り、テレビを見ていた。


『何だろう…。今の臨也を見ると、触りたくなる』


 の隣に座っていたセルティは、臨也の頬を指でつんつんと触れる。漫画やアニメなら『ぷに』と効果音が出そうな柔らかさに、思わず胸をときめかせた。


「普段の臨也さんからは考えられない程の破壊力だよね…」

『柔らかいし可愛らしいし、ずっとこのままでいいんじゃないか?』

「あのさ、俺の近くでそんな会話するのやめてくれるかな」


 の胸に凭れかかった。ここまでに触れ、近づくのは初めてだ。23歳の臨也なら怒るだろうが、胸に凭れかかっているのに怒らないところを見ると、子供姿の臨也を本当に気に入っているようだった。――少しだけ、静雄に勝った気分を味わう臨也だった。


「あ、お風呂なんですけど…一人で入れますか?」

「この姿だからねぇ…ちゃんが一緒に入ってくれるなら入る」

『それは私が許さない』

「…じゃあ明日入る」

『ならもう寝たほうがいいだろう。部屋は貸してやるから』

ちゃん、一緒に寝てよ。怖い」


 セルティは『それも駄目だ』と打って見せるつもりだったが、泣きそうな表情を見せる臨也に胸を打たれ、PDAに何も打てなかった。それはも同じで、例え子供姿でも駄目だと断ろうと思っていたが断れなかった。臨也に引っ張られる形で部屋に向かう。


「手、繋いで」


 臨也に言われ、手を繋ぐ。そして、二人は眠りに着いた。
 ――は失念していた。臨也の姿は、明日の朝には元に戻ると言うことに。




 ――翌朝。が目を覚ますと、にこりと微笑む23歳の臨也の姿。子供用の服は破けており、上半身は何も身に着けていなかった。


「やぁ、おはよう。ちゃん」


 の悲鳴を聞いたセルティが駆け付け、影を出して臨也を縛り上げたのは言うまでもない。




おまけ

「叫ぶ必要なんて無かったと思うんだけど」

「朝起きたら小さかったはずの臨也さんが大きくなってて、裸だったら誰だって叫びますよ」

『子供姿の臨也は可愛かったのに…もう一度薬を飲め。そして二度と戻るな』

「ひどいなセルティ。大人の俺は嫌?」

『可愛げがない。ぷにぷにじゃない』

「俺に一体何を求めてるの」








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