くしゅん! 保健室に小さなくしゃみが一つ。


「寒気がするなぁ…」


 作業を中断し、は体温計を取りだした。早速熱を測ってみる。頭もぼんやりとしてきたため、確実に熱はあるだろうと思っていた。
 作業は別に急がなくても良いものなので、今日はここで終わることに。保健委員だからこそ、無理せず尚且つ早めに風邪を治さなければと考えての行動だ。


「そろそろかな?」


 体温計を見てみると、の予想を超えた熱が表示されていた。


「さ、38度越え…?」


 早く布団を敷いて、暖かくして寝ないと。そう思って自分の部屋へと帰ろうと立ち上がったとき、視界がぐにゃりと歪んだ。頭に鈍い痛みが襲う。
 頭を押さえ、ふらつく身体をどうにかして支えようと目の前に見えた柱に手をやろうとした。が、柱と自分の距離すら掴めない。柱へと伸ばしたの手は空中を切り、とうとう身体は畳の上に倒れてしまった。直後、の意識は深い眠りへと旅立ってしまった。










「――ん…」


 薄らと目を開けると、の目には天井が飛び込んできた。意識がなくなる寸前に見たものは畳だったが、今は布団で眠っていた。
 布団を敷いた覚えもない。誰かが敷いてくれたとしても移動した覚えもない。一体誰が――。熱でいつも以上に重く感じる身体を起こそうとしたとき、襖が開いた。


「あ、!目が覚めた?でもまだ起きちゃいけないよ、熱があるんだから」


 そこに居たのは伊作だった。
 倒れたを発見したのも、布団を敷いて寝かせてあげたのも伊作だったのだ。どれだけ眠ったのかはにはわからないが、それでもこうして気がつくまで傍に居て看病をしてくれていた。
 伊作は手に持っていた氷水が入った桶を置くと、の額に手を置いた。いつもなら暖かく感じる伊作の手は、ひんやりとしているように感じ、とても心地良い。伊作の手が離れたあと、の額には冷たい手ぬぐいが置かれた。


「喉は乾いてない?水あるよ」

「少し、もらってもいい?」


 先程から喉が乾燥していて唾液を飲み込むのが辛かったのだ。伊作は手際良く用意すると、飲みやすいようにとの頭を自分の膝の上に置き、口元まで持っていく。が咳込まないようにと慎重に傾けていった。
 飲み終えた後は、膝の上に乗っていたの頭をゆっくりと下ろした。最初倒れていたときよりも顔色は少し優れたように見えた。


「さっきよりは顔色が良いね。良かった」

「…さっき、そんなに悪かった?」

「そうだね…。それに、今よりも熱が高かったからそれもあるかも」

「そっか…」


 は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ただでさえ今のこの時期は体調を崩す者が多く、保健室は慌ただしくなる。保健委員ももちろん新野先生の手伝いをするため忙しい。特に伊作とは上級生だ。下級生よりも仕事の量は多い。そんな中で自分が体調を崩し、伊作の仕事を増やしてしまったことに対して責任を感じた。
 伊作はもちろん気にしていない。何よりもこうしての看病を自分からやると名乗り出たぐらいなのだから。


、気にしなくていいんだよ。僕が望んで看病をしているのだから」

「でも、私の仕事を全部伊作くんに押しつけてしまうことになるんだよ…?」

「構わないよ。それでが元気になるのなら、僕は何だってするよ。それに、今がやらなくちゃいけないことは、風邪を治すこと!わかった?」

「わ、わかった…」

が眠るまで、僕がずっと傍にいる。だから、安心して眠って」


 伊作はの顔の横に置かれていた手を握って微笑んだ。伊作の手を緩く握り返してはそっと目を瞑った。
 目が覚めたとき、一番に伊作の顔が見れるようにと願いながら。










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