今日も実習で大怪我をした。いつものことだと言えばいつものことなんだけど、今回は少しいつもと違うことが起きた。
「伊作くん、他に痛いところはない?」
「な、ないよ。うん、まったくない!」
自分で治療しようと保健室へ行くと、そこにはがいた。あぁ、そういえば今日の当番はだったような…。会えて良かった――そう思ったのは最初だけ。今は正直とても恥ずかしい。でも心のどこかで喜んでいる自分がいたりする。
保健委員長の僕が不運なのは周知の事実。も保健委員だから不運だし、穴に落ちたり転んだり…怪我をするのはよくあることだ。実習でも怪我を負って帰ってくることはたくさんある。今回もその一つなのだから。だったら何が恥ずかしいか。
「わ、待って。動かないで伊作くん!」
「ご、ごめん…!」
「じゃ、もう一回触るね?」
痛くないようにするから、そう言っては傷がある場所に触れる。ひんやりとした指先が火照ってる僕にはとても心地良い。
「伊作くんも大変だね。実習がある度にたくさん怪我して…」
「そう、だね。でも、それはもだよ」
「あはは、そっか。そうだよね。私達、保健委員会だもんね」
くすくすと笑うの吐息が僕の顔に当たる。今は僕の首筋にある怪我の治療をしてくれているんだけど、距離が近いっていうのもあって緊張してしまう。
少し手を伸ばせば簡単にに触れることが出来る距離。今まで一緒に委員会の仕事をしてきたりもしたけど、今回みたいな距離まで近づいたのは初めてかもしれない。は何も思っていないのかな。僕だけが緊張しているのかな。真剣に治療にあたってくれているに対して僕は何を考えているんだろうって思ったけど、でもやっぱり気になってしまう。
――のことが好きだから。
少し視線を横に動かしてを見た。僕が見ていることに気づいていないは、僕に話しかけながら治療をしてくれている。そういえば、こんな距離での顔を見るのは初めてだ。こうやって近くで見るとまた違うな。わ、やっぱり睫毛長いな。
「ん?伊作くん、どうかした?」
「あぁ、うん、睫毛が長…ってうわああああああ!!」
「え?睫毛?」
「あ、いや、その、何ていうか!」
きっと今の僕は顔が真っ赤だと思う。心の中で思っていればいいものをまさか口に出してしまうなんて…。とりあえず落ち着こうとから離れるために後ろに下がっていく。
「伊作くん、危な――」
「へ?」
後ろで何かが揺れてるのはわかったけど、まさかそれが自分のところに倒れようとしてるなんて思わないじゃないか。僕の視界は揺れているのだけを捉えて、暗転した。
――何か柔らかいものが上に乗ってる気がした。痛みも背中を床にぶつけた程度だし、一体何が。
「あ、伊作くん!」
がいた。
「ご、ごめん、重たいよね!すぐに下りるから!」
僕の上から急いで下りようとする。そのとき、何を思ったのか僕の右手は彼女の左手を掴んだ。掴むだけなら良かったのに、掴んだあとに自分のほうに引き寄せてしまった。僕の胸の上にが寝転がる状態になる。
状況が追いついていないのだろう、はきょとんとした表情で僕を見つめている。何か、何か言わなければ。どうする?いっそのこと、ここで想いを告げてしまおうか。
「、あの――」
――あのとき、伊作くんは何を言おうとしてたのだろう。
ちょうど乱太郎くんが入って来て、私と伊作くんの状況を見てすぐに出て行ってしまったけれど。そのあと伊作くんも言ってくれることはなかった。
私は伊作くんに掴まれた左手に触れた。あんなに近い距離で話したり触れ合ったりしたのはきっと初めてだったと思う。
…緊張した。治療してるとき、手が震えてたの知ってるかな。手を掴まれて引っ張られたとき、ほんの少し期待したの気づいてるかな。
「…伊作くん。」
好きだよ。
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