「皆、楽しんでくれてるみたいで良かった」
今日はイナズマジャパンの宿舎でクリスマス会。マネージャー達は選手達に楽しんでもらおうと先程から動き回っている。もちろん、もそうだ。空いた皿をキッチンに持っていき、また別の皿に料理を盛って、テーブルの上に置きに行く。今日はいつも以上に皆が食べているように感じた。テーブルとキッチンを何度行き来したかわからない。
「あれ」
飲み物を補充し終えて視線を前に戻すと、少し疲れた様子の不動がいた。
「どうしたんだろう」
今日のクリスマス会は練習後に開かれた為、それで疲れているのかもしれない。今までいた輪から外れ、一人壁際に凭れている。
声をかけに行ってみようと、キッチンにペットボトルを置いて彼の元へと向かった。
「疲れた?」
「あ? いきなりなんだよ」
「だって、疲れたような顔してるから」
――あれ、てっきり疲れてるのかと思ったんだけどなぁ。
「……別に、疲れたとか、そんなんじゃねーよ」
不動の隣に移動し、彼と同じように壁に凭れる。目の前ではクリスマス会を楽しむ円堂達の姿がある。
「クリスマスぐらいで浮かれてやんの」
「だってクリスマスだもん。浮かれるよ」
「それでクリスマス会かよ。考える事がガキくせえ」
「……そんな事言う割には不動くんも楽しんでなかった?」
「……」
舌打ちをしてから顔を逸らす不動。図星だったのかと思うと自然と笑みが零れる。
不思議だった。最初は、不動とは敵同士。決して分かりあえる事が出来ない相手だと、そう思っていた。だが、不動が日本代表に、イナズマジャパンの選手に選ばれ、はイナズマジャパンのマネージャーに選ばれ、関わっていく内に不動明王と言う少年がどんな少年なのかがわかってきた。
嫌みや皮肉が多く、仲間と打ち明けようともしないが、彼は彼なりにちゃんと仲間の事を見てくれているのだ。そして今も、文句を言いつつも、参加してくれている。
「あ、私ね、不動くんにクリスマスプレゼント用意したんだよ!」
「へぇ……クリスマスプレゼントねえ」
「これこれ! ミサンガ!」
ポケットから取り出したのは、お世辞にも『上手』とは言えないミサンガ。それを見た不動は肩を震わせて笑いを堪えた。が、堪え切れる筈もなく、ついに笑いだした。
「お前、何それ……!」
「だ、だから、ミサンガだってば」
「それが? ミサンガ? ははははっ! 笑わせんなよ!」
「ひどいなぁ! 一生懸命作ったんだよ!?」
「人に渡す物ならもうちょっと上手く作るべきだろ」
「……いくつか作った中で、これが一番上手く出来たからこれにしたんだけど」
「おい、その冗談笑えねーぞ」
「冗談じゃないってば!」
このミサンガは、せっかくだからクリスマスプレゼントを渡そうとマネージャー達が企画したものだ。春奈は兄である鬼道に。秋と冬花は円堂に。
そのため、三人で作っていたのだが、やはりあの二人と比べれば出来は遥かに劣る。
――はぁ……。自分が不器用だって事はわかってたけどさぁ……。
あからさまに肩を落とすを見て、少し言い過ぎたかと不動はため息をついた。面倒な女だと思いつつも、捨て置けないのだ。
そんな事を不動が考えているとは知らないは、そこまで言わなくても、と落ち込んでいた。すると、不動が無言で手を出した。
「な、何?」
「それ、俺のなんだろ?」
「でも笑った」
「うぜぇな。……いいから、つけろよ」
何とも言えない表情で少しだけ頬を赤く染める不動に、は目を丸くした。
「ほ、本当にいいの?」
「……」
「自分でも、ちょっと、ううん、大分おかしいって思うんだけど……」
「おい、オレがつけろって言ってんだよ」
「は、はい」
おそるおそる差し出された腕の手首につける。長さはちょうど良いみたいだ。
――よ、良かったぁ! 長さまでおかしかったら笑い事じゃ済まなかったもんね。
不動は手首につけられたミサンガをまじまじと見つめた。その様子を見ていたは、もしかしたらまた何か嫌みか皮肉を言われるかもしれないと思い、不動が発する言葉に意識を集中していた。何を言われても、すぐに言い返す準備ももちろんしている。
が、彼が発した言葉は予想外の言葉だった。
「中々良いんじゃねぇの?」
「へ?」
「ま、見た目は面白いままだけどな。でも、嫌いじゃねえ」
その言葉が胸に突き刺さるが、それ以上にもあの不動から良い言葉を受け取る事が出来た。
嫌いじゃない――。その言葉で今までの言動は気にならなくなる程。そして何よりも、きちんとつけてくれた。それだけでも、渡して良かったとは思った。
「……クリスマスプレゼントか」
「ん? どうしたの?」
「クリスマスなんて、オレにはもう無縁のものだと思ってた」
以前、響木から聞いた不動の過去を思い出す。
過去に父親が不当にリストラをされ、その上に多額の借金を背負わされた事。そんな父親に愛想を尽かした母親から言われた一言が、彼の人格形成に多大な影響を与えた事。
隣で立っている不動を見る。無縁のものだと言った彼の表情は、無表情だった。
――こんな時、何て言葉をかければいいのかわからない。守くんなら、彼に、不動くんに何て言葉をかけるんだろう。
は首を横に振り、ぱんっと自分の頬を叩いた。
「いきなり何してんだよ」
「気合い! 気合い入れてたの!」
「はぁ?」
――守くんは守くん。私は私。守くんが言いそうな言葉を言っても、それは私の言葉じゃない。守くんの言葉。不動くんには、私の言葉を言わなくちゃいけないんだ。
驚く不動の手を、は握り締めた。そんなの行動に不動は更に驚く。
「大丈夫!」
「何がだよ」
「これから毎年、クリスマスの日になったら私がプレゼントを渡すよ!」
「……だから?」
「だから、これからは無縁じゃないよ! 不動くんにも必要な日になる!」
「……」
最初は驚いていたが、次第に不動の表情は笑みに変わっていく。
「……ははっ」
「?」
「はははははっ! お前、馬鹿だろ」
「ば、馬鹿!?」
「あぁ、馬鹿だよ。ばーか」
いつもの嫌みな表情を浮かべてはいるが、目はどことなく優しく感じた。馬鹿だと言い放った不動は、壁に沿って腰を下ろし、床に座る。も不動と同じように座るが、何故馬鹿だと言われたのかよくわからない。眉をひそめて考えていると、隣で座っている不動は再び笑いだした。
「お前さ、オレとずっと一緒にいる気なの?」
――え?
意味がわからないと首を傾げると、不動は楽しいと言わんばかりの表情を浮かべる。
「さっき自分で言ってただろ? 毎年、オレにクリスマスプレゼントを渡すって」
「うん」
「どうやって渡すつもりなんだよ」
「どうやってって……手渡し」
「はははっ! 手渡しね。その言葉に、しっかり責任持てよ?」
「……へ? うん、持つよ。責任持つ! まかせといて!」
――意味がよくわからないんだけど、別に嫌がられてるわけじゃないんだよね?
笑みを浮かべていると、前から円堂が歩いて来た。
「、不動! そんなところで何してるんだ?」
「へへ、ちょっとお喋り!」
「そっかー! あ、これから皆でゲームしようかって話してたんだけどさ、一緒にしようぜ!」
「へぇ、それ楽しそ――」
立ち上がろうとした時、手を握られた。咄嗟に隣を振り向くが、何も気にしていないようだ。の方を見ず、円堂と喋っている。
意識しているのは自分だけなのだろうか。不動の手の冷たさが伝わり、は混乱した。
――って、さっき私、不動くんの手握ってなかった!? そう言えばあのときも不動くんの手、結構冷たかったような……って違う! どうしよう、どうしよう!
「やっぱりゲームは全員で楽しまないとな! だからお前達も参加しようぜ!」
「別にオレらがいなくてもゲームは出来んだし、楽しめるだろ?」
「何言ってるんだ? ゲームもサッカーと同じさ! 皆で楽しむものなんだ。だから、一緒にゲームしようぜ!」
「おいおいキャプテン。こんなところまでサッカーを例えに出すのかよ」
円堂からは見えないところで繋がれる手。それで緊張するのだろうか。
――いや、違う気がする。こんな事するとは思えない不動から握られたから、緊張しているのではないかと考えたが、それも違うような気がした。相手が不動だから、緊張しているようなそんな気がする。先程自分から握った時の事を思い出すと、恥ずかしくなった。あの時は本当に無意識だったのだ。クリスマスが無縁のものだと言う彼に『私がいるから、無縁じゃない』と伝えたい一心で起こした行動。
――今考えるとすごいおこがましい事だけど……。でも、でも……。
そうやってが考え事をしているうちに、話は円堂と不動でつけられていたようだ。結局、不動ももゲームには強制参加らしい。
「じゃあ後で行けばいいんだろ」
「よし、待ってるからな! おーい、先にオレ達で始めようぜ!」
再び二人だけになる。手は繋がれたままだ。
「なぁ、お前ってキャプテンの従妹だっけ?」
「うん、歳も学年も変わらないけど、誕生日は守くんのほうが早いからあっちがお兄さんなんだけどね」
「従兄妹か。……道理で似てるわけだ」
「私と守くん? そうかなぁ……」
握られた手を意識してしまい、会話をするのが精一杯。それでも、相手に緊張している事を悟られぬようにとは頑張るのだが、やはり不動は気付いていた。
「で、何で緊張してるわけ?」
「な、何のことかさっぱり……」
「ふーん、まぁいいけどさあ」
――見抜かれてる……!
鋭いな、そう思っていると、繋がれていた手が離れた。
どこか寂しく感じた。繋いでいるときは緊張しているのだが、不動の温もりがとても心地よかったのだ。それが今は無い。は自分の手を眺め、小さく息を吐きだした。
「おい」
不動に呼ばれ振り向くと、唇に何かが触れた。それが不動の唇だとすぐに気付く。
「メリークリスマス、」
「え、え、め、メリー、クリスマス……」
瞬きを繰り返すに、口元を歪め、不動は立ち上がった。
「それじゃ、ゲームに参加するから」
ひらひらと手を振り、不動はゲームをしている輪の中に入っていく。その場に残されたは、不動の背中を見つめることしか出来ない。
――い、今、な、何をされたの私……。
唇に手を当て、先程の事を思い返す。
不動に呼ばれ、振り向いた。すると、唇に唇が触れた。
「あ、あれって……キ、キス!?」
不動とは付き合っていると言うわけではない。ただ、一緒にいる事は確実に増え、一緒にいない日は何かが物足りなく感じる。先程のキスで、は自分自身が抱いている不動への想いに気付いた。手を握られて緊張した事にも合点がいく。
――私、不動くんの事が好きなんだ。
膝を抱え、顔を埋めた。
「はぁ……」
ちらりと前を見た。気だるそうにはしているが、ゲームを楽しんでいる不動。
「不動くんは、どう想ってるんだろう」
特別な感情を抱いていなければ、キスなどしない。期待しても良いのだろうかと思った。
不動も、自分と同じ感情を抱いていると。
「でも、不動くんは何も言ってくれないだろうなぁ」
言葉ではなく、行動で示すのが彼、不動明王だ。
「よーし、私もゲームに参加しよう!」
行動で示すのが彼ならば、こちらは言葉で示そう。は不動がいる所へと向かった。
おまけ その@
「あれ、不動。機嫌良いじゃん!」
「……は?」
「何か良い事でもあったのか?」
円堂の質問に、不動は鼻で笑った。
「別に? オレはいつもと変わらねぇけど」
「そうかなぁ……。オレから見ると、今の不動はもの凄く機嫌が良いように見えるけど」
普段の自分は機嫌が悪そうに見えるのか。そうつっこみたくなったが堪える。
「今日がクリスマスだからじゃねぇの?」
「あー! なるほどな! 不動もやっぱりクリスマスでテンション上がってんのか!」
そういう意味では無いのだが、ある意味当たっているのかもしれない。不動は視線を下げ、ポケットを見る。ポケットには左手を突っ込んでいて、その左手の手首には先程から受け取ったミサンガをつけている。
「……クリスマスも、結構楽しいもんだな」
「え? 何か言ったか?」
「何も言ってねーよ。それよりも、キャプテンの番みたいだぜ?」
「あ、オレか!」
クリスマスなど、あってないようなものだと思っていたが、少しだけ、これからのクリスマスが楽しみになった。
おまけ そのA
「私、好きだよ!」
「……何が?」
「だから、不動くんの事!」
「ふーん」
「何その返事」
「気付くの遅いだろ」
「え?」
「オレは気付いてたけど? お前がオレの事好きなの」
「……嘘」
先程気付いたなど言えない。どれだけ鈍感なのかと思った。
「不動くんは? 不動くんは、私の事どう想ってるの?」
「お前と一緒」
「そっか、私と一緒か! ……って、本当!?」
「さぁね」
「ちょ、ちょっと、不動くん!?」
結局、不動からは何も聞けなかっただった。
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