『カラオケと言うものは楽しいのか?』

「え、うーん…楽しいんじゃないかな?大人数で行くと特に」

『…』


 律義に三点リーダまで打つセルティ。は黙っていたが、セルティが自分の反応を待っていることはわかっていた。カラオケに興味を持ち、行ってみたいのだろう。誘ってほしい、そういうオーラがセルティから出ていた。


「…行ってみる?」

『カラオケ?』

「うん、カラオケ。でも、カラオケって歌う場所だからセルティはただ聴いてるだけでつまらないかも…」


 そう、カラオケは本来は歌を歌う場所だ。セルティには首が無い。首が無いと言うことは、歌を歌うことが出来ない。ただ聴く側に居るしかないのだ。それでも良いか、と聞くと、セルティはヘルメットを縦に何度も揺らした。本当にカラオケに行ってみたいのだろう。
 それがにも伝わり、今からカラオケに行くことにした。だが、そこでふと考える。二人だと歌うのはだけになる。それだと最近流行りのヒトカラとあまり変わらないため、あまりカラオケの楽しさがセルティに伝わらない。誰かを誘おう、と携帯を取り出して電話帳を眺める。


「…誰誘う?とりあえず、セルティのことを知ってる人が良いよね」

『誰でもいいぞ?あぁ、なら新羅でも呼ぶか?』

「そうだね、出来るならたくさん人が居たほうが楽しいしね。
 じゃあ、セルティは新羅さん呼んでくれる?私は…そうだなぁ、とりあえずカラオケマスターって呼ばれてる竜ヶ峰君と、杏里ちゃん…。んー、あと遊馬崎さんと狩沢さんと門田さんも呼ぼうか」


 ――あと誰を呼ぼう。セルティのことを知ってる人となると限られてくるよね。


『静雄はどうだ?』

「じゃあお兄ちゃんも呼ぼう。…これぐらいでいいかな?」


 ――よーし、一斉送信で送っちゃおう。


 急いでメールを作成し、全員に送った。すぐに携帯が震える。真っ先に返事を返してきたのは、遊馬崎と狩沢だった。内容は実にシンプル。


『ちょうど行きたいと思ってたんっすよ!行くっす!』

『おぉー、何てグッドタイミング。行く行くー』


 再び携帯が震える。次に返事を返してきたのは帝人と杏里だ。


『カラオケかぁ。最近行ってなかったから誘ってくれて嬉しいよ!』

『からおけ、いきます』


 最後は静雄と門田。そして、セルティのほうには新羅から返事が来た。


『セルティもいるのか、ってアイツ歌えた?まぁいいや、行くよ』

『意外なメンバーだな。面白そうだ、行ってやる』

『カラオケ!?セルティ、君は首が無いから歌えないんだよ!?聴く専門になるけどいいのかい?
 まぁでも君からの誘いだ、行くよ。あぁ、何を歌おう…。せっかくセルティに聴かせるのだから、愛の歌が良いよね。うん、いろいろ考えながら向かうよ』


 新羅の長文はともかく、全員が参加することになった。セルティは初めてのカラオケに喜びからか身体を震わせる。もこのようなメンバーでのカラオケは初めてなので、とても楽しみになった。こんな大人数でカラオケに行くことすら滅多にないのだ。


『早く行こう!』

「わー、待って待って!」


 セルティの後ろに跨り、待ち合わせ場所まで黒バイクを走らせる。主であるセルティの感情が伝わったのか、馬の嘶きがいつもよりも響き渡った。





 ――二人が待ち合わせ場所に着いたときには、すでに全員が集合していた。こういうときの団結力にはいつも驚きを隠せない。そして、更に驚いたのは、連絡を入れていないはずの臨也が居て当たり前のように存在していたことだ。


「…あれ?臨也さん?」

「やぁ、ちゃん。楽しそうだね、俺も混ぜてよ」

「何で手前みてぇなノミ蟲野郎を混ぜねぇといけねぇんだよ!」

「はぁ…わかってないなぁ、シズちゃんは。こういうのはさ、大人数で楽しむものなんだよ?」


 とりあえず、ここで騒ぎを起こされるとカラオケどころではない。セルティは二人の間に立ち、その場をなんとか収める。その間には遊馬崎達と共に店に入り、部屋の予約を完了させた。臨也は静雄が居るため敢えて誘わなかったのだが、どうやって知ったのだろうかと不思議に思いながら。


「部屋の予約出来たっすよー!皆さん行きましょー!」


 都市伝説の首無しライダーも普通に入れるカラオケ店は中々無いだろう。普通にセルティを入れてくれたこの店に感謝をした。
 そんなセルティは、案内された大人数ようのパーティールームの中をきょろきょろと見渡し、置いてある器具一つ一つを手に取り眺めていた。分からないものなどはPDAに打ち込んで新羅や静雄に聞いていた。その姿があまりにも可愛く見え、は笑みを零した。都市伝説と呼ばれ、人々に畏怖の念を抱かれているセルティが、カラオケでここまではしゃいでいるのだ。


「そうだ、ドリンク淹れてこないと。ここはセルフみたいですから、僕が取りに行ってきます」

「あ、ううん。私が取りに行ってくるよ。皆さん、何でも良いですか?」


 は立ちあがり、部屋から出ていく。すると、後ろから何故か臨也がついてきた。


「俺も手伝うよ。ちゃん一人じゃ重たいだろうから」

「ありがとうございます、臨也さん」

「いいよいいよ。それに、燃料を投下しないと…ね」

「え?」

「何でもないよ、さぁ早く取りに行こうか」


 は臨也と共にドリンクを取りに行く。それが、悲劇、いや、喜劇の幕開けとも知らずに。


「上手いんですね、竜ヶ峰君」

「え、そ、そうかな?」

「帝人くんさすがっすねぇ…。これは負けてられないっす!」

「いけいけゆまっちー!」

「おい、ちょっとテンション高すぎじゃねーか…?」

「ドタチンはわかってないなぁ、カラオケはテンションを高くして行うものだよ?」


 カラオケマスターと言う異名を持つ帝人は、その異名の通り上手だった。そんな帝人に何故か対抗心を燃やす遊馬崎は曲を入れた。隣に座っている狩沢は曲名を見て「ピッピカチュー!」と叫ぶ。


「いくっすよー、ポケモンゲットだぜ!!」

「ずっとこのノリで行くのかコイツら…」

「まぁまぁ、飲み物でも飲んで落ち着きなよ静雄。せっかくのカラオケなんだし、楽しまなくちゃ損だよ?」


 新羅からコップを受け取り、静雄は気だるそうに口を付ける。
 先程から歌っているのは、帝人・狩沢・遊馬崎の三人。そろそろ他にもマイクを渡したほうがいいだろう、と門田が言うまでマイクはその三人で独占状態だったのは言うまでもない。


「じゃあ次は僕が歌わせてもらってもいいかな?セルティに贈りたい歌があるんだ!」

『わ、私にか?』


 ――新羅は一体何を歌ってくれるのだろう…。


 新羅が入れた曲はわからないが、セルティは子供のように胸を躍らせた。が、歌が始まってすぐに固まることになる。


「おぉ!?これはラムちゃんっすね!」

「…おい…良いのか、黒バイク…。止めなくていいのか…」

『…新羅ぁぁぁぁあああ!』

「え、何だいセルティ?僕は今君に愛の歌をぶべ、な、何で殴るの、い、痛い!」

「じゃあ次は俺が歌おうかな」

「いたたたたた痛いよセルティ、って次は臨也が歌うのかい!?」

「何その反応。俺も歌うよ?せっかく来てるんだからさ」


 曲を入れ、少しだけキーを下げる。――確かに上手い。上手いのだが、何故かそれ以上の感情がその場に居る人間の中にはあった。そして、それを言葉にしたのはやはり犬猿の仲にある静雄だった。
 しかし、どこか様子がおかしい。は静雄の顔を見るが、少し火照っているように見えるのだ。室温はそんなに高くは無いはずなのだが――。


「…うぜぇ」

「俺の歌の上手さに嫉妬?情けないねぇ、シズちゃんは」

「嫉妬?誰がノミ蟲に嫉妬するか。よし、マイク貸せ。あぁそいつが触ってない奴な。次は俺が歌う」


 皆が静雄に注目した。一体何を歌うのか、どのようにして歌うのか。歌は上手いのか、下手なのか。それぞれが何かを思いながら耳を傾けていることなど知らない静雄は、すぅ、と小さく息を吸った。


『…

「な、何…?」

『私は…その、静雄は歌を歌ったりするイメージが無かったんだ』

「そうだね、私も無かったよ。…今まではね」


 の隣に座っている静雄を見る。マイクを片手に、ソファーの背もたれに凭れかかって気だるそうに歌っているのだが、二人とも、いや、ここに居る全員がここまでとは思っていなかった。


『上手すぎるだろう!な、何だコイツは!何で今まで歌わなかった!』

「わ、わからないよセルティ!今まで歌う素振りなんてまったく見せてなかったのに、臨也さんが歌ってから急にって、うわぁ!」

「よし、お前も一緒に歌え、な?」

「え、えぇぇ!?」


 ぐい、と静雄に引き寄せられ、肩を組む。ここまでテンションが高い静雄は見たことがあるだろうか。遊馬崎や狩沢は何も気にしていないようだが、昔から静雄を知っている新羅や門田、そしてセルティはそんな静雄に呆然としていた。最早、帝人と杏里はこの状況についていけているかすら危うい。
 その中で、臨也は楽しそうに笑みを浮かべていた。まるで、悪戯が成功したとでも言いたげに。


「おい、次何歌う?あぁ、これでいいよな、これで」

「聞いといて自分で決めるってどうなの、お兄ちゃん…」

「何だか楽しくなってきたっす!」

「いけいけー!もっと歌えー!」

「…おい、黒バイク。この状況、どうすりゃいいよ…」

『私に聞くな。…だが、あの静雄があんな風になるなんて。まるで酔っ払っているみたいだ』

「そうだね、本当に酔っ払って…セルティ、それ当たってるかもしれない…」


 新羅は静雄のコップに残っている液体を見つめた。次に静雄の顔を見る。照明でよくわからないが、それでも薄らと赤みが差しているのがわかった。新羅の中である結論が出る。静雄がこんな風になったきっかけを作った人間もすぐにわかった。


「…臨也、君だね?静雄のコップにだけアルコール入れたの」

「あれ、シズちゃんってお酒弱かった?」

『な、静雄のコップにだけアルコールを入れたのか!陰湿な…』

「おいおい、それは無いだろ?こうやって場を盛り上げるきっかけを与えてあげたんだよ!もっと喜んでほしいなぁ」


 ――盛り上がっている。確かに盛り上がってはいるが、何か違うだろう!


 セルティはそう思ったが、今の静雄を止めれる者は誰一人としてここには存在しない。
 静雄のことを思うとやりきれない気持ちにはなったが、歌は非常に上手い。聴いていて心地の良い声だ。だが、静雄自身は今日のことを聞くと落ち込むだろう。このような姿を臨也の前で晒してしまったのだから。
 セルティは、明日の予定に静雄を慰めることを追加した。


「あ、あの、もうそろそろ時間なんですけど…」

「じゃあ延長しようか。帝人君、フロントに電話してくれる?」

『臨也!お前、何言っているんだ!』

「クハハハハ!何言ってるって、延長だよ、延長。
 シズちゃんのあんな姿滅多に見れないんだから、ここは延長するしかないだろ?」

『…、静雄を止めろ』

「む、無理だよ!止めれるならもうとっくに止めてるよ!」


 セルティの初めてのカラオケ体験は、このような形にはなってしまったことだけが残念なのだが、確実に大切な思い出となったのは間違いなかった。





おまけ


「…、俺、昨日何した?」

「…歌ってた」

「…それだけか?」

「…めちゃくちゃテンション高かった」

『あ、いや、落ち込むな静雄!歌、上手かったぞ!本当だ!ただ、ちょっと酔っ払ってただけなんだ!』

「…いや、もうそれ以上言わないでくれ」


 頭を抱え込む静雄に、とセルティは何も言えなかった。







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