セルティとの出会いは、静雄を通じてだった。
「セルティ、こいつが会いたがってたんだ」
まだ高校生だった静雄が彼女に紹介したのは、ランドセルを背負う女の子。恥ずかしいのか、静雄の服を握って上目づかいでこちらを見ている。セルティがヘルメットの正面を少女のほうに向けると、静雄の後ろに隠れてしまった。が、やはりセルティが気になるのだろう。隠れつつ、ちらちらとセルティのほうを気にしていた。
その仕草が可愛らしく、興奮した様子でPDAを取り出し急いで文字を打った。
『な、何だこの子は!仕草がいちいち可愛すぎるだろう!』
「俺が言うのもなんだがよ、可愛いだろ」
「え、えぇえぇぇえぇ!!あの静雄が『可愛いだろ』って言った!
これは天変地異の前触れじゃないかい!?大変だよ、セルティ、急いでこの場から離れててててて!」
『新羅は少し黙っててくれないか』
セルティは少女と目線を合わせようとその場にしゃがみこんだ。少しヘルメットを傾け、首を傾げているように見せると、少女もセルティと同じように首を傾げた。PDAに『おなまえは?』と小学生でも読めるようにひらがなで文字を打ち、少女に見せた。恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、少女は口を開いた。
「えっと…、です…」
『わたしのなまえは、セルティだ。セルティ・ストゥルルソン』
「でも静雄。何でこの子がセルティに会いたがってたのさ」
「あぁ、俺がセルティの話をしたら『私も会ってみたい』って言うからさ」
嬉しそうに笑う静雄を見て、心の底からを気にいっていることがわかったセルティ。普段の静雄は、周りの人間から一歩離れたところで居るような感じがしていた。まるで、自分の傍に来るなと言っているかのように。
「今思ったんだけど、その子って静雄の妹とかではないよね?」
「ん、あぁ。親の知り合いの子だ。三年前から一緒に住んでる」
「あのね、死んじゃったの。パパとママ…。だから、お兄ちゃんの家で暮らすことになったの」
静雄がの話を渋っているのを判断したのだろうか。は自分から平和島家で住む経緯を話し始めた。
自分の両親が交通事故で亡くなったこと。そして、突然現れたを平和島家は快く迎えてくれたこと。それがとても嬉しいということ。
『ごめんね、かなしいはなしをさせてしまって』
「ううん、いいの。静雄お兄ちゃんが一緒に居てくれるから!」
にこにこと笑うは静雄の手を握った。静雄もの手を握り返し、微笑んだ。
セルティはその光景を見てとても微笑ましいと思ったが、新羅は驚いたようだ。今まで静雄と友人として付き合ってきた中で、こうして誰かに微笑む様子など見たことが無かったからだ。それも、幸せそうに。
『しずおおにいちゃんのことすき?』
「うん、好き。大好き!将来、結婚するんだよ!」
「な…!何ということだ…!静雄がこんな小さな女の子捕まえて将来の、結婚の約束まで取り付けてるなんて…!」
「手前は黙ってろ」
「あぁ!顔が赤いよ静雄!もしかしてもしかしなくても照れてるんだね!?」
新羅を追いかけるために静雄はの手を離して走り始めた。確かに顔が少し赤いかもしれない。そんな光景にまたまた微笑ましいと思っているとき、がセルティの手を握った。
「あのね、セルティは、私とお友達になってくれる?」
『もちろんだ。わたしと名前はもうともだちだよ』
「やった!私ね、静雄お兄ちゃんから話を聞いてずっとセルティとお友達になりたいと思ってたの!」
こうして二人の間に友情が芽生えた。都市伝説と呼ばれているセルティが、黒バイクの後ろに子供を乗せて走ったりする光景がたまにあったのも、この頃からだった。
「――そう考えると、セルティとの付き合いも長いね」
『そうだな』
「お兄ちゃんがね、『とても話しやすい奴がいる』って言っててさ。それで気になったんだ。
ほら、お兄ちゃんってあまり自分のこととか話さないでしょ?そんなお兄ちゃんが話しやすいっていうぐらいだからどんな人かと思って」
『あぁ、それで私のことが気になったのか。
話を聞いただけで私と話がしたいなどと思うものなのかと不思議に思っていたから』
ベンチに座って話す二人。少し異様な光景かもしれないが、まったく気にならなかった。
『が静雄と結婚すると言っていたこともあったな』
「ちょ、あの、その話は…!」
『珍しく静雄が照れて、照れ隠しで新羅を追いかけたり』
「や、やめよう、その話はもうやめよう!」
『いいじゃないか、静雄も嫌がっていなかったし。いや、寧ろ嬉しそうだったし』
「あれ、セルティと。こんなとこで座って何してんだ?」
仕事帰りの静雄が二人に気付いたらしく、こちらにやってきた。
どうせなら静雄にもこの話をしてやろうと、セルティはPDAに過去にが言った結婚の話を打った。一体静雄はどんな反応をするのだろうか。慌てふためくのだろうか。それとも新羅にやったように追いかけるのだろうか。わくわくしながらPDAを見せる。
「…何でその話してんだ…」
「あ、いや、何て言うか、話の流れでそうなったって言うか…」
『あのときの静雄は見ていてとても微笑ましかったぞ、うん』
――そして、今のお前の反応もな。
口元を手で押さえ、視線を彷徨わせている。あのときと同じように、顔を赤らめて。
『ごちそうさまでした』
「何がごちそうさまでしただ。からかいやがって…。あとで何か奢れよ」
『考えておく』
お互い恥ずかしいのか、微妙な距離を保っている静雄とを置いて、セルティはシューターに跨り帰って行った。曲がり角を曲がるとき、ちらりと二人を見てみた。付き合いたての初々しいカップルのような二人。何を言っているかはわからないが、静雄が手を出し、それにが手を乗せ、手を繋いで歩く姿が確認出来た。
――再び、ごちそうさまでした。
新羅にこのことを話そうと心に決めたセルティだった。
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